
暮らしを通して伝えるモンゴルの歴史
6年ほど前のこと、編集者とチンギス・ハンの話をしていたとき、「チンギス・ハンから現在までの、800年間にわたるモンゴルの歴史の絵本をつくりましょう」と言われました。
「えっ、私たちは本を書けるほど歴史に詳しくないし、まだ人生経験も浅いから自信がありません」と答えると、
「そんなに難しく考えることはないですよ。自分たちの祖先を思いながらつくっていけばいいんです」と励まされ、思いきって取り組むことにしました。
まず、自分たちの祖先について聞いた話を思い出してみました。私の祖先は、14世紀、モンゴルの王様の異国遠征に加わった兵士の一団だそうです。
長い旅路のとちゅう、連れていた多くの馬が死に、わずかに残った馬とともに何千キロもの道のりを駆けてモンゴルに戻ってきたと伝えられています。目を閉じると、たった一頭の馬に家族で乗り、ふるさとをめざして草原を走るすがたが浮かんできます。戻ってきた祖先たちは遊牧民として暮らし、のちには仏画を描く人や、お坊さんになった人もいたようです。
また、これまでの自分や家族の暮らしも振り返りました。私が子どものころは、モンゴルは社会主義国でした。食べ物も着るものも種類が少なく、近所の友達みんなが同じような格好をしていました。外国に行く人もめずらしく、たまに外国の食べ物が手に入ると大喜びしていました。1990年に民主化・市場経済化されると、社会が混乱して生活は苦しくなりました。医者だった私の母は仕事をやめて食料品店で働きました。どの親も朝から晩まで忙しいので、子どもたちが家事をする、そんな時代に育ちました。
そんなことを考え話しながら、絵を描くボロルマーとともに、普通の人びとの暮らしを通して、モンゴルの壮大な歴史を伝えたいと努めました。
「モンゴル大草原800年」の歴史をたどる旅で、みなさんとお会いするのを楽しみにしています。
(訳・津田紀子)
(いちんのろぶ・がんばーとる)●既刊に『りゅうおうさまのたからもの』『トヤのひっこし』『おかあさんとわるいキツネ』など。
福音館書店
『モンゴル大草原800年』
イチンノロブ・ガンバートル・文
バーサンスレン・ボロルマー・絵
津田紀子・訳
本体2、000円