
ふんわりやさしく、温かく
「ポッケにぽん!とタッチすると、いろいろなものが出てくる絵本を作りませんか?」
その企画を耳にした瞬間にはもう、
『ぼくがポッケに入りたい!』
『わたしもポッケから飛び出したい』たくさんのどうぶつたちが、頭の中に浮かんで騒ぎ出しました。
そうしてポッケに入るどうぶつたちの制作が始まりました。
どうぶつたちは羊毛フェルトという素材でできています。その素材との出会いは、ずっとイラストを描いてきた私たちにとって衝撃的でした。
羊の毛をニードル(針)で差し固めるだけなのです。形を変えたければ後から足せばよいのです。大きくなりすぎたらハサミで切ってしまってもよいのです。ちょっと粘土に近い感覚ですが、できあがると、ふんわりやさしい手触りでした。ぬいぐるみやあみぐるみでは思うように作れなかった『くま』が羊毛フェルトで作ってみると、イメージどおりのものになりました。見よう見まねではじめた羊毛フェルトでしたが、数日後、机の上は『くま』でいっぱいになっていました。
あれから十年以上が経った今、この絵本で、最初のポッケに入ってもらうことになったのも『くま』でした。はじめて作った『くま』よりも技術的にはちょっと上達していると思うのですが、込めた愛情は全く変わりません。
実際には紙に印刷されたどうぶつたちですが、触ってもらうことで温まり、それがそのまま羊毛フェルトの素材の温かさと同じになってくれるような気がします。こどもたちのちいさな手で、おとうさん、おかあさんの大きな手で、この絵本がいつも温かくなっていたら、私もどうぶつたちも幸せです。
企画の当初に浮かんだどうぶつは、もっともっとたくさんいましたが、この絵本のポッケの数は限られていました。そのたくさんのどうぶつたちも、今頃どこかで、誰かの洋服のポッケにこっそり隠れて遊んでいたら良いなあ、と思っています。
(せときよふみ、せとよしみ)●既刊に『はじめての羊毛マスコット』『羊毛フェルトのどうぶつおやつマスコット』など。
ひかりのくに
『ポッケにタッチ!』
Chiku Chiku・制作
本体680円