日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うさぎのラジオ』 島村木綿子

(月刊「こどもの本」2012年4月号より)
島村木綿子さん

うさぎと暮らせば

 うさぎについて、みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか?

 可愛い、おとなしい、臆病、鳴かない、無表情、あまりなつかない……。このようなイメージが多いのではないかと思います。

 ところが、一緒に暮らしてみると、うさぎはとても感情表現が豊かで、おもしろくて魅力的な生き物なのです。
 私は十二年間、ラビと名づけた黒いミニウサギと暮らしましたが、おかげで自他共にみとめる、大のうさぎ好きになってしまいました。

 愛らしい姿やしぐさはもちろん、私がとくに心ひかれたのは、うさぎの行動の奥に、野性の習性をかいま見る瞬間でした。そんな時には、うさぎの向こう側に、野原や森が広がっているように感じたものです。

 その日々の中から生まれてきたのが、『うさぎのラジオ』の物語です。

 ある日、熱心に耳の手入れをしているラビの姿をながめていて、「あんなに長い耳なら、中に何かかくすこともできそう……」と、ふと思いました。

 それが、もし小さなラジオだったら? そしてうさぎ専用のラジオ局を通じて、彼らがいつも情報交換をしているとしたら?などと考えていくうちに、つぎつぎと想像がふくらみ、物語が動き始めていったのです。

 これはファンタジー童話ですが、作中の月丸の動作は、ラビの実際の動作をもとにして書いています。

 たとえば、後ろ足でダンッと床をたたくことや、突然ジャンプやダッシュをしはじめることなどは、ラビがよくやっていました。ラビを見ながら「なぜこんな動きをするんだろう?」と、あれこれ想いをめぐらせているうちに、自然と、楽しいラジオの番組が生まれてきました。

 人間以外の生き物の世界を知ったり、想像したりすることは、自分が住む世界の奥行きや幅を広げることだと思っています。

 本を読んでくれた子どもたちが、うさぎの世界へと心を広げ、楽しんでくれれば、なによりの喜びです。

(しまむら・ゆうこ)●既刊に『七草小屋のふしぎなわすれもの』『七草小屋のふしぎな写真集』、詩集に『宇宙のすみっこ』など。

「うさぎのラジオ」
国土社
『うさぎのラジオ』
島村木綿子・作
いたやさとし・絵
本体1,200円