
うさぎと暮らせば
うさぎについて、みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか?
可愛い、おとなしい、臆病、鳴かない、無表情、あまりなつかない……。このようなイメージが多いのではないかと思います。
ところが、一緒に暮らしてみると、うさぎはとても感情表現が豊かで、おもしろくて魅力的な生き物なのです。
私は十二年間、ラビと名づけた黒いミニウサギと暮らしましたが、おかげで自他共にみとめる、大のうさぎ好きになってしまいました。
愛らしい姿やしぐさはもちろん、私がとくに心ひかれたのは、うさぎの行動の奥に、野性の習性をかいま見る瞬間でした。そんな時には、うさぎの向こう側に、野原や森が広がっているように感じたものです。
その日々の中から生まれてきたのが、『うさぎのラジオ』の物語です。
ある日、熱心に耳の手入れをしているラビの姿をながめていて、「あんなに長い耳なら、中に何かかくすこともできそう……」と、ふと思いました。
それが、もし小さなラジオだったら? そしてうさぎ専用のラジオ局を通じて、彼らがいつも情報交換をしているとしたら?などと考えていくうちに、つぎつぎと想像がふくらみ、物語が動き始めていったのです。
これはファンタジー童話ですが、作中の月丸の動作は、ラビの実際の動作をもとにして書いています。
たとえば、後ろ足でダンッと床をたたくことや、突然ジャンプやダッシュをしはじめることなどは、ラビがよくやっていました。ラビを見ながら「なぜこんな動きをするんだろう?」と、あれこれ想いをめぐらせているうちに、自然と、楽しいラジオの番組が生まれてきました。
人間以外の生き物の世界を知ったり、想像したりすることは、自分が住む世界の奥行きや幅を広げることだと思っています。
本を読んでくれた子どもたちが、うさぎの世界へと心を広げ、楽しんでくれれば、なによりの喜びです。
(しまむら・ゆうこ)●既刊に『七草小屋のふしぎなわすれもの』『七草小屋のふしぎな写真集』、詩集に『宇宙のすみっこ』など。
国土社
『うさぎのラジオ』
島村木綿子・作
いたやさとし・絵
本体1,200円