日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『四重奏(カルテット)デイズ』 横田明子

(月刊「こどもの本」2018年2月号より)
横田明子さん

物語の力を信じて

『四重奏(カルテット)デイズ』は、タイトルも示す通り、音楽をテーマとした物語です。

 四歳からピアノを習っている主人公・タカくんと、その幼なじみの光平と彩音。そして、ドイツからの転校生マイちゃん。小学六年生の四人が、日々の中でそれぞれに紡ぎ織りなしていく「音色」を描きだしたいと思いました。

 キーワードは「音苦(おんく)」。

 辞書にも載っていませんが、実は私が昔、小学生の頃に習っていたピアノの先生から言われた言葉です。

 練習もろくにしてこない生徒に、先生は呆れたにちがいありません。

「あなたのピアノは、ちっとも楽しそうに聞こえないわ。音楽の反対だから音苦ね」

 今にして思えば、実にうまい表現だと感心してしまいますが、この一語は、なぜかずうっと頭から離れず、私にある思いを抱かせるようになりました。

 あの頃は、どうしてちゃんと練習しなかったんだろう。もっとピアノを弾きたいと思わなかったんだろう。

 それが長い時間をかけて積み重なったのでしょうか。ある時不意に、私と同じ思いを持った男の子が、胸の隅から顔を出したのです。そこで、その子に「タカくん」と名づけました。

 彼が、なんとなく続けていたピアノが、やがてかけがえのないものになっていくまでの過程は、もちろん、簡単なものではありませんでした。

 書いていくうちに、タカくんたちが、自分の進む道をさぐろうともがく様子を、夢の中で私は何度も見ました。登場人物は、私のもとを抜けだし、物語の中で、リアルに動き始め、命を宿していったのです。

「ピアノって、音楽って、だれかと分け合わなきゃもったいない。だから、音が出る。響くんだもんね」

 マイちゃんが、タカくんに言った言葉です。

 同じように、物語が奏でる力を信じながら書きあげたこの一作が、読んでくれただれかの心に響いて届いてくれるなら、こんなにうれしいことはありません。

(よこた・あきこ)●既刊に『ば、い、お、り、ん』『「遺伝子組みかえ」だいさくせん』『カホのいれかわり大パニック』など。

『四重奏(カルテット)デイズ』
岩崎書店
『四重奏(カルテット)デイズ』
横田明子・作
本体1、400円