
ぽちっと赤いものって?
ホッキョクグマの子ミキは、雪の中で遊ぶのが大好き。冷たい海で魚をとるのに一生懸命なお母さんグマのそばを離れて、ひとりで遠くへかけだします。すると一面の雪景色の中に、ぽちっと赤いものが見えました。ミキが近くまで走っていくと、赤いものはだんだん大きくなって、前足を振っているではありませんか。そばに寄ってにおいをくんくん。赤いものは「くくくっ」と声を出しました。
ミキが出会ったのは赤い服を着た人間の女の子だったのですが、この絵本は主人公の子グマの視点から描かれているので、「ぽちっとあかいもの」と表現されています。ミキは人間に会うのは初めてだったのでしょう。けれどもにおいをかいだり、さわりあったりしてすぐに仲良くなり、雪の上をころがりながら一緒に遊び始めます。
「ミキ」という名前は、イヌイットの言語(イヌクティトゥット語)で「小さい」という意味だそうです。ミキが出会った女の子は、服装から見てイヌイットの女の子でしょう。北極圏の雪と氷に閉ざされた厳しい自然が舞台ですが、絵は素朴で温かみがあり、幼い子どもの無邪気な喜びが伝わってきます。画面構成も工夫してあり、一面の白の中に赤を生かしたデザインが効果的です。
主人公の小さな冒険、出会い、そしてちょっとした試練を乗り越え、最後はお母さんと一緒に寝床へ帰るというストーリー展開は、幼い子どもたちへの読み聞かせにぴったりです。翻訳するとき、私はまず原文を声に出して何度も読み、その絵本の世界をたっぷりと味わうのですが、この本には余分なところがひとつもなく本当にシンプル。それが幼い主人公の無邪気な視点をよく表していると感じ、子グマの気持ちに寄りそって訳しました。
この絵本はイギリスの新進作家のデビュー作。絵を描いたイラストレーターもこれが二作目というフレッシュなコンビです。けれども新鮮な中にどこか懐かしい、安心できる雰囲気が感じられ、何度も読みたくなる一冊です。
(ふくもと・ゆみこ)●既訳書にP・メカトーフ『いもうとガイドブック』、M・ヌードセン『としょかんライオン』など。
少年写真新聞社
『ぽちっと あかい おともだち』
コーリン・アーヴェリス・文
フィオーナ・ウッドコック・絵
福本友美子・訳
本体1、600円