
命は当たり前じゃない
フライパンでバターが溶けて、キツネ色になりかけたときの匂い。
そこに卵をジュワーッと流しこんで作るふわふわのオムレツ。
レストランを舞台にしようと決めたとき、すぐに浮かんだ名前が「オムレツ屋」でした。
おいしいものは、人を優しい気持ちにするはず。その中でなら、心に何かを抱えた子ども達だって、自分の生き方を見つけられるはず。
そして生まれたのが、シリーズ前作『オムレツ屋へようこそ!』でした。尚子、和也、敏也の三人は、人の優しさに囲まれて、成長します。
今回、『オムレツ屋のベビードレス』でこの子達が向き合うのは、命。
なんと、和也と敏也の母親明子に赤ちゃんができたのです。命の誕生にどう向き合えばいいのかとまどう和也達。
一方、尚子の破天荒な母親悠香は、尚子の目の前で、暴れ馬にまたがって走り出します。もし、落ちたら、もし母さんが死んだらどうしよう。尚子は夢中で後を追いかけます。ところが、この悠香も旅先で命のはかなさを体験していたのです。
今の子ども達の多くは、パッと消えてポコッと再生するゲームのキャラクターに囲まれています。一方で、身近な誕生や死を経験することは、少なくなっています。
考えてみれば、大人だって機会がなければ、命について考えることは、そんなにありません。
「生きていて当たり前」になっていませんか。
悠香はいいます。
「人が生きているのは、当たり前じゃなかったんだ。」
明子は祈ります。
「命だけは、命だけは、助けて下さい。」
命ってなくなることもあるんです。だから、かけがえのない大切なものなんです。
子ども達が、気づいてくれたらうれしいなと思ってこの作品を書きました。
(にしむら・ゆり)●既刊に『いちごケーキはピアニッシモで』『きらきらシャワー』『占い屋敷のプラネタリウム』など。
国土社
『オムレツ屋のベビードレス』
西村友里・作
鈴木びんこ・絵
本体1、300円