
カブトムシの謎に迫る
カブトムシはとても人気のある昆虫です。子どものころにカブトムシの飼育や採集をしたことのある人も多いでしょう。私も例外ではなく、カブトムシに夢中でした。カブトムシとの出会いはどれも鮮明に覚えていますが、とりわけ印象的なのは、冬の竹林で、広葉樹の倒木の下からたくさんの幼虫を見つけたときのものです。真っ黒な土の上に純白の巨大な終齢幼虫が所狭しと横たわっている様は、とても美しく、強く心に残りました。このときに見た光景が、私が大学院に進学してカブトムシの研究を始める原点となります。
これまで長い間、カブトムシの幼虫たちは土の中でお互い無関係に生活していると考えられてきました。実際にカブトムシの幼虫は一匹ずつ容器に入れて飼っていても、餌を食べて大きくなり、問題なく成虫になります。ところが私が研究を進めていくうちに、実際には彼らは、まわりの同種他個体から発せられる情報を、さまざまな場面で使いながら生活していることが分かってきました。
なぜカブトムシは身近な昆虫であるにもかかわらず、このようなことが分かっていなかったのでしょうか。それはヒトとカブトムシが依存する感覚が大きく違っているからかもしれません。ヒトにとって最も重要な感覚は、言うまでもなく視覚です。ところが土の中で生活するカブトムシは、視覚的な情報を使うことができません。彼らが使うのは、おもに化学情報や振動情報です。私たちがカブトムシの感覚世界を想像するのは簡単ではありません。
では私はどのようにして幼虫たちの密かなやりとりを見つけることができたのでしょうか。本書には、その答えに到達する過程が詳しく書かれています。多くの方に、ぜひ謎解きの楽しさを追体験してもらいたいと思います。また、カブトムシがいかに魅力的な生き物であるかを感じてもらえれば幸いです。
(こじま・わたる)●本書が初の著作。
さ・え・ら書房
『わたしのカブトムシ研究』
小島 渉・著
本体1、300円