
不器用な子どもたち
物語を書いていて面白いのは、物語のなかで人と人がふれあい、ぶつかりあい、交錯するなかで、登場人物が思いもよらない化学反応を起こすことです。
『チキン!』は、ケンカももめごとも苦手で、あらゆるトラブルをさけて生きてきた日色拓という男の子と、言いたいことはなんだって口にしてしまう真中凛という女の子、そんな二人を軸とした物語です。
たぶんこの二人、世間一般でいう“へたれな男の子”と“空気の読めないウザい女の子”です。
拓は自分を抑えることで、その場を平穏無事に生きています。へたれと思われようと、自分を守るために編み出した彼なりの処世術です。
一方の凛は、自分に正直でいようとすることで、周りといちいち衝突しますが、それも彼女なりの覚悟をもった生き方です。
そんな二人は、本当に不器用な子どもたちで、どちらも読者である子どもたちにとって、魅力的な存在ではないと思います。
けれど、彼らが交錯するなかで、拓は凛の強さともろさに、凛は拓のやさしさと強さに出会います。同時に互いに自分の内側にある“なにか”に、ちょっと気付いていきます。
このお話を書きながら、わたしは自分の子どもの頃のことを何度も思い出しました。わたしもけっして器用な子どもではありませんでした。拓のようなへたれな部分も、凛のように頑なな部分もありました。それはきっと、わたしだけでなく、多くの子どもたちのなかに秘められている、生きにくさなのかもしれません。
大人になり、人と折り合いをつけることや白黒ではないグレーな部分を受け入れることを身につけ、そこそこ器用に立ち回れるようになった気がします。でも、だからこそ、わたしには拓や凛の不器用さが輝いて見えるのです。
不器用な子どもたちが交錯するなかで生まれる化学反応とはどのようなものか、ご一読いただければ幸いです。
●既刊に『ひいな』『アポリア』『二日月』など。
文研出版
『チキン!』
いとうみく・作 こがしわかおり・絵
本体1、300円