日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『かがみのサーカス』 渡邉千夏

(月刊「こどもの本」2017年2月号より)
渡邉千夏さん

たねも、しかけも、まるみえです

 鏡のように反射する紙で、しかけえほんをつくる。以前、メーカーで企画開発をしていた経験からも、かがみのえほんが製品として成立するのは、非常に困難であると、予想していました。

 編集さんをはじめ、多くの協力者に恵まれたことが、かがみのえほんが出版に至る大きな鍵であったと思います。一生分の運を、使い切ったかのような幸運でした。かがみのえほんが、いま多くの読者の皆さんに届き、楽しんでいただけていることは、まさに夢のようです。

 さて、そのかがみのえほんも、新刊『かがみのサーカス』で3作目となります。せっかくいただいた幸運を、作り手としても、楽しみ尽くさねば! と考えています。既刊『ふしぎなにじ』、『きょうのおやつは』の2冊は、まるで別の作者がつくったかのような、異なるテイストにまとまっています。『かがみのサーカス』においても、さらに全く別の方向から、鏡のしかけを楽しめる作品にするよう、心掛けました。

 1・2作目と比べると、一見開きの中により多くのモチーフを詰め込み、物語を展開させています。鏡面の映り込みが複雑に入り組むなど、鏡のしかけを楽しむ「たね」が詰まった1冊になっています。

 あるとき、かがみのえほんを読んで「魔法だ!」と驚いたり、鏡像を追って思わずページの裏側を覗き込んだりする子どもがいました。不思議そうな顔で、ページを何度も閉じたり、開いたり。その様子は、かがみのえほんの内容を考えている時の、自分の姿とも重なりました。まず、ページを開いてすぐの「わぁ」という瞬間が、楽しい。その後、「どうして、そうなっちゃうの?」と不思議に思い、あれこれ考えているときもまた、面白いのです。『かがみのサーカス』には、どうして? と、じわじわ考えたくなる「たね」を、色々仕込んでおきました。左右のページを90度に開くと、不思議で立体的な絵を楽しめます。ぱたんと180度に開くと、たねも、しかけも、まるみえの状態になります。閉じたり、開いたりしながら、どうぞじっくり、お楽しみください。

(わたなべ・ちなつ)●既刊に『きょうのおやつは』『ふしぎなにじ』。

『かがみのサーカス』

福音館書店
『かがみのサーカス』
わたなべちなつ・さく
本体1、500円

(わたなべ・ちなつ)●既刊に『きょうのおやつは』『ふしぎなにじ』。