日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おしりだよ』 乾 栄里子

(月刊「こどもの本」2017年2月号より)
乾 栄里子さん

体の声をきいてみる?

 何年か前、ぼんやりテレビを見ていると「あなたの背中は大丈夫?」と、突然コマーシャルが話しかけてきました。ん? 私の背中? 大丈夫? どういうことだろうと、頭の中が「?」でいっぱいになりました。思えば、今まで自分の背中のことを考えたことなど一度もありませんでした。まして大丈夫かどうかなど、背中に聞いてみなければ分かるはずもありません。

 体に聞いてみる? そういえば、子育て中、熱があっても「遊ぶ~!」と言ってきかない幼い息子に「遊びたいよね。だけど、体は、つらいよー、もうお休みしたいよーって言ってるよ」と、言い聞かせたものでした。

 子供の頃のことを思い返すと、体は今よりずっと身近で親密なものでした。その頃だったら体と話もできたかも。

 そう、体にだって言いたいことはあるはず!ということで出発したこのお話、はじめは『むーちゃんのせなか』でした。でも、やっぱり背中よりおしりのほうがチャーミング…。という訳で、おしりが話しかけてくる話に変更しました。きっと背中は「あーあ、背中は地味だから、いつもないがしろにされるんだよね」ってぼやいていたに違いありません。ごめんね、背中。

 そのおしりの話を編集者の方に読んで頂き、長い時間かけてやっと今の形になりました。何度カフェで時間を忘れて話し合ったことか…。その後、むーちゃんとむーちゃんのおしりをかわいく描いて頂き、明るく楽しい絵本ができあがりました。

 ずっとおしりのことばかり考えていたので、硬い床に押し付けられている自分のおしりがかわいそうで、座布団を買いました。かさかさの脚にニベアを塗るときに、ついでにおしりにも塗るようになりました。間違いなく私は自分のおしりに感謝されています。

 背中のことを忘れていました。ほったらかしていました。「子供たちをおんぶして育てたのに…。くっそーグレてやる…」と、やけになっている気配を、最近背後に感じます。私の背中は多分、大丈夫じゃありません。

(いぬい・えりこ)●既刊に『バルバルさん』『ふくろうのダルトリー』『ちびうそくん』(以上、西村敏雄/絵)など。
『おしりだよ』
教育画劇
『おしりだよ』
乾 栄里子・作
西村敏雄・絵
本体1、100円