
どんどろめがね
はやしますみ/作
2016年7月刊行
「次はぜひ絵本を!」
二〇一四年六月小社刊の童話『子リスのカリンとキッコ』(金治直美/作)で素晴らしい挿絵をお描きいただいたはやしますみさん。以前から絵本作品のファンだったこともあり、私はすぐに絵本執筆の依頼をさせていただきました。
そして、早速その夏に京都で実現した打合せに、はやしさんは、たくさんのラフを持ってきてくださいました。それぞれ違った魅力に溢れるラフをお見せいただく中で、ひと際小さな判型の短い作品に、私は強く惹かれました。それが『どんどろめがね』の原型となるラフでした。
冒頭、地面から土まみれの古めかしいメガネが掘り出されます。かけると山がイノシシに、白い花がハトに、麦畑が大きなネコにと、自然のもうひとつの姿が見えてくる不思議なメガネ。ほんの小さなラフの紙面から、はやしさんの伸びやかなタッチで描かれる雄大な自然と、そこに宿る魂のようなものが浮かび上がってくるのを感じました。
「これはすごい絵本になる」という確信はありましたが、この段階ではまだ完成には程遠い状態。構成について、二、三こちらから提案はさせていただきましたが、基本的には、はやしさんの中の作品世界が熟成されるのを待つことにしました。
そして届いた二度目のラフに、私は心臓をズキューンと撃ち抜かれました。はやしさんが『どんどろめがね』の世界観を掘り下げて掘り下げて、完全に自分のものにしてくださったことが一目見てわかるような、その完成度。甘さは排除され、豊かで、猛々しく、時に恐ろしいまでに躍動する自然の姿がそこにはありました。もちろん編集部でも即OK。画材こそクレヨンからオイルパステルになっていますが、今世に出ている『どんどろめがね』は、この時いただいたラフからほとんど変わっていません。
ちなみに、『どんどろめがね』の制作について、はやしさんはご自身のブログでこのように書かれています。
『どんどろめがね』は自分の頭の中の深い森を手探りで進むような作業。ぼこっと沸いたイメージを捕まえてなんだろうなんだろうって磨いて撫でて紙に写し取っていくような作業。(中略)産気づくまで苦しんだけど、初めて安産で生まれた絵本。
はやしさんの頭の中の深い森、ぜひ一緒に覗いてみませんか? みなさんには、いったい何が見えますか?