日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『つきよの3びき』 たかどのほうこ

(月刊「こどもの本」2017年1月号より)
たかどのほうこさん

『つきよの3びき』の絵のこと

 岡本順さんが描かれた絵本『きつね、きつね、きつねがとおる』(伊藤遊/作・ポプラ社)には、夜の川べりを練り歩くきつねの行列が出てくるのですが、行列がやってくる少し前、辺りは、異世界がこの世に忍び込んでくるらしい、しんとした、それでいてざわっとする不思議な空気に包まれます。その微妙な感じが、あまりにもみごとに描かれていて、びっくりしたのです。

 その後、岡本さん制作の、擬人化されながらも忠実に描かれた動物たちが夜に集う何枚かの絵葉書を拝見し、その、ひそやかな、でもぬくぬくと温かい世界に魅せられました。そうした体験を通して、いつか私も、岡本さんに絵を描いていただけるようなお話を作れたらいいなと思うようになったのです。

 その願いが叶ったのが、『つきよの3びき』です。

 外灯や月の光に照らされた、夜の住宅街の様子がひしひしと伝わってくる、静謐感のある絵がつづきます。その中で、毛並までわかるようなリアルな動物たちが動き回ります。何と繊細で丁寧な絵でしょう。溜め息が出ます。

 実は岡本さん、この技法で、葉書サイズ以上の絵を描かれたことはなかったのだそうで、なんとこの間、腱鞘炎になってしまわれたそうです。(しかも、三匹のさまざまな動きや、それぞれの家などをくわしく描いた、使う当てのない絵も、実はたくさんあって、嬉しいやらもったいないやら、岡本さんの誠実なお人柄に、頭が下がりっぱなしでした)

 お話は単純です。理不尽な叱られ方をしてお母さんにプンプンし、家をとびだしてきて悪ふざけをしたあと、ふと垣間見た、よその子のお母さんのやさしさに、わだかまっていた心がほぐれ、早くお母さんに会いたくなった経験、小さい頃には、大なり小なり、どなたにもあったのではないでしょうか。

 この夜のできごとを、子どもたちが、自分のことのように感じながら読み、三匹のことを好きになってくれたらいいと思います。

(たかどのほうこ)●既刊に『まあちゃんのすてきなエプロン』『ポンちゃんはお金もち』『老嬢物語』など。

『つきよの3びき』

童心社
『つきよの3びき』
たかどのほうこ・作
岡本 順・絵
本体1、300円