
いつでも夢は持てる
この本は、北海道旭川市で暮らしている下田昇兵さんの実話をもとにして描きました。昇兵さんは現在車椅子で、ヘルパーさんたちの力を借りながら、ひとり暮らしをしています。
昇兵さんには『脊髄小脳変性症』という、だんだんと体の機能が失われていく病気のお母さんがいました。六歳からお母さんの手伝いで料理をしていた昇兵さんの夢は「大きくなったら料理人になる」こと。
でも昇兵さんは十七歳の夏、自分もお母さんと同じ病気にかかっていると告知されました。目の前が真っ暗になり、学校をやめ、家に引きこもります。
そんな昇兵さんはあるとき、旭川で活動している『チーム紅蓮』のメンバーと出会います。彼らは障がい者が働くことを支援し、スポーツ大会や地域のイベントに積極的に参加し、また、旭川を訪れた障がい者の方の観光をサポートしたりと、日々精力的に活動しています。昇兵さんも彼らの仲間に加わることで、少しずつ気持ちが前向きになっていきました。
だんだんと歩けなくなり、うまく話せなくなっていく日々、それでも料理は続けていましたが、ある日大やけどを負い、もう火を使ってはいけないと医者から止められてしまいます。
何度も何度も絶望の底につき落とされる昇兵さん……。でも、レンジや炊飯器を使えば、料理はできると気づきました。そして、自分と同じように障がいのある人やお年寄りのために、火を使わずにできる料理のレシピ本を作れたら……。そんな思いが芽生えてきました。料理人にはもうなれない昇兵さんに、新たな夢が生まれたのです。
昇兵さんの思いに賛同し、手伝ってくれたのは『チーム紅蓮』の仲間たち。レシピ本作成の夢をかなえるために、資金集めが始まります。そしてついに夢がかなう日がやってくるのです!
どんなに大きな困難があっても、夢は持てる。そして周りには支えてくれる仲間がいる。
昇兵さんは私たちにいろいろなことを気づかせてくれるのです。
(ももせ・しのぶ)●既刊に『世界を動かすことば世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』「泣けちゃう怪談」シリーズなど。
汐文社
『レシピにたくした料理人の夢─難病で火を使えない少年─』
百瀬しのぶ・文
本体1、400円