
バナナの皮先生
もとはと申しますと、朝、娘が保育園の門の前でバナナを食べる習慣があった事から始まりました。登園をしぶっていた頃、家を出る時にバナナを一本(または半分)握らせる、すると園に向かう決意ができたようで、玄関を飛び出していけたのです。門前で食べている間、次々に親子が園に入っていきます。やがてお子さんの支度が終わって仕事へ出かけていくおかあさん方。いってらっしゃいと数人見送った頃、ようやくうちの娘が最後の一口を口に詰め込み、皮を自転車かごに残し、登園。その後、先生によるとお見苦しい状態になる事もあったようです(飲み込めずに)。
数ヶ月間ほど続けられたこのバナナ習慣を、その年度の園文集個人欄に描き、添え書きに思いつきで「もんぜんバナナ」と入れました。こうしてタイトルが先に出来上がりました。帰り道、自転車をこぎながら、かごの中のバナナの皮をみつめる。(これ、この後どうしようかな? まあ、捨てるにきまってる。うっかりこのままかごに忘れたら腐っちゃってさ。でもバナナの皮としては納得いかないんじゃない? 皮にも心だもの。悲しいだろうし、怒ってるかもしれないね。せめてごちそうさまでしたって言ってもらいたいよ。ははあ、バナナの皮って面白い。バナナの皮の気持ちになってみたら思いのほかイメージが膨らむものなのね。この皮の気持ちをお話にしてみたい。「もんぜんバナナ」は、食べ物を大切にはもちろんだけど、それだけじゃなくて、役割を終えたものにだって心がある、なのよ。とくにバナナの皮って、中身がなくなった後の姿が何かもの言いたげでしょ?)
こうしてバナナの皮が自分の気持ちを伝えるお話が生まれました。バナナの皮の気持ち、聞いてみたいでしょ? バナナの皮の授業に、あなたもぜひお越し下さい。年中見学歓迎。バナナ好き? 嫌い? 好きでも嫌いでも、門の前で待ってるぜ!
(ささきみお)●既刊に『おかあさん、おみやげ』『どろんこどろにゃあ』『おばけのひやめしや』など。
文研出版
『もんぜんバナナ』
ささきみお・作
本体1、300円