
夜間中学で学ぶ
中学の卒業式の日、校長室で担任の先生が「ここで卒業証書を受け取らずに、夜間中学に行く道がある」と教えてくれた……夜間中学卒業生だという男性は、そう語りました。ネットで見た「夜間中学等の全国拡充に向けたシンポジウム」の一場面です。五年生から不登校で引きこもっていた彼は、このあと夜間中学に入り、さらに高校、大学へと進学しました。失われた中学時代を、こんな形で取り戻すことができるのかと衝撃を受けました。
夜間中学は、元々は戦後の混乱期に学校に通うことのできなかった人たちの学び直しの場として作られました。しかし、現在ではそういう人たちは僅かで、生徒のほとんどが母国で義務教育を終えることのできなかった外国人や、何らかの事情で中学に通うことのできなかった日本人の若者です。
物語を書くに当たって、東京の夜間中学を見学させていただきました。なんとなく暗い雰囲気をイメージしていたのですが、全然違いました。どの教室も明るく、楽しそうなのです。掲示板には、昨年度の行事の写真が飾られていました。年齢も国籍もバラバラな生徒たちが肩を寄せ合い、誇らしげに収まっていました。「学校で学ぶ」ということは、楽しく、誇らしいことなのだと、その笑顔が語っていました。
『夜間中学へようこそ』は、中学一年生の優菜のおばあちゃんが「夜間中学に行く」と宣言するところから始まります。ひょんなことから、優菜も付き添いとして夜間中学へ通うことになり、そこで戦後の混乱期を一人で生き抜いてきた松本さん、「やり直しの旅」の途中だという美織、人と交わるのが下手な和真、やたらと調子のいいカルロスなど様々な生徒に出会います。昼間の中学では、決して出会うことのなかった人たちです。彼らと出会うことで、優菜は学ぶ道も生き方も、一つではないことを知ります。
夜間中学は数も少なく、世間では周知されていません。この物語を通し、夜間中学やそこで学ぶ生徒たちのことを知ってもらえたらうれしいです。
(やまもと・えつこ)
●既刊に『ななとさきちゃん ふたりはペア』『先生、しゅくだいわすれました』など。
岩崎書店
『夜間中学へようこそ』
山本悦子・作
本体1、500円