ももんちゃんをなでなでする
…まあ! きいろい かすてらが、ふんわりと かおを だしました。
「やあ、おいしそう!」……
というところで、隣で寝ながら聞いていたわが幼子の手がするりと出てきて、カステラの絵を触り、その手を自分の口元に持っていって食べるしぐさをするではないか。おいおい、こんな絵にだまされてはいかんぜよ、父は独りごつ。
団塊の世代の私は、読み聞かせをしてもらったことのないまま大人になり親になった。そんなときに見せつけられた絵本『ぐりとぐら』。
あくびをかみころし、どうってことないお話と絵に毎晩つき合わされた。
─この程度のものならオレでも創れる─大いなる錯覚であった。それは後で痛いほど思い知らされる。
乳幼児向けの作品は単にうまいヘタの世界ではないのである。作品にチカラがないと伝わっていかない。大人と同じ社会で暮らしていても、彼らは全く違う認識で世界を見ている。その彼らの呼吸、息遣いに作品として伴走できているかどうか、永く読み継がれてきた本にはそのチカラが備わっている。
スーパー赤ちゃん、自立した赤ちゃん、年齢不詳、性別不明の主人公、ももんちゃんの登場も19巻目になった。
きんぎょさん、おばけさん、さぼてんさん、ももんちゃん、みんなおなかが痛くなった。そこで、なでなでよしよしである。子育て経験者なら、みなたどってきた行為であろう。
ダミーができた時点で、福岡県の図書館から講演会に呼ばれていた。お話し会の最後の方で、次にこんなものを創っているんだよと表紙だけ見せると、前の方に座っていた男の子が読めという。小さな椅子を持ち出したら、子どもたちが車座になって聞いてくれた。
「なでなで、なでなで」
すると、何人かの子が立ち上がり、ダミーの絵のももんちゃんのおなかのところを、なでなでするではないか。
おいおい、こんな絵にだまされてはいかんぜよ。
遠いむかしのことを思い出した。
(とよた・かずひこ)
●既刊に『とうもろこしくんがね‥』『まくらちゃんです。』『リュックちゃんです。』など。
童心社
『なでなで ももんちゃん』
とよたかずひこ・さく・え
本体800円