日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『天国にとどけ! ホームラン』 漆原智良

(月刊「こどもの本」2016年6月号より)
漆原智良さん

夢は叶えるもの

 3・11の東日本大震災発生から数日後、うつろな瞳で海を眺めている少年がテレビに映し出されたとき、胸を締めつけられた。第2次世界大戦最中、3・10東京大空襲で、一夜にして家族、家屋を失い、戦災孤児となって焼け跡の瓦礫の前に佇んだ私の姿とが、オーバーラップしたからである。
「子どもたちを元気づけたい」。私は、すぐ被災地支援に立ちあがった。
 いまは、被災地からの「大震災を風化させないで……」という声を受け「石巻の瓦礫を押しのけて芽を出した、ど根性ひまわりの花を全国に咲かせ、勇気を分け合おう」という活動に参加している。そのなかで、本書の主人公、千葉清英さんと出会ったのである。
 私の生い立ちを知った千葉さんは、被災後の己の生活を忌憚なく語ってくれた。乳業を営んでいたが、津波で家族7人を亡くしたこと、無事だった息子と暮らしていること、息子と、バッティングセンターを作る約束をし、それを実現させたこと、など……。
 千葉さんが、目標達成のために各地を奔走し、オリジナル商品を開発したりして、前向きに行動している姿に心を揺さぶられた。私は「その体験を次世代に残して欲しい」と頼んだ。すると「息子の記録としても残したい」と快諾し、レポート用紙3枚に、乗り越えてきた悲しみと苦労を書いて送ってくれたのである。
 私は、必死に多難な出来事を想像しながら、文字の奥に波打つ千葉さんの思いを探りはじめていった。すると「夢は見るものではない。叶えるものである」「希望に向かって歩み出したとき、本当の心の復興ができるのではないか」といった心情が、どのような行動となって現れているのかハッキリと映ってきたのである。そこで「大震災後、苦難にもめげず、希望をもって夢に向かい、それを叶えるまでの過程」をテーマにまとめあげることにした。重い作品だけに、構想がまとまった段階で、編集長のKさん、画家の羽尻さんも現地に同行し、心を一つにして作りあげた。さらに、侍ジャパン監督・小久保裕紀さんが帯に推薦文を寄せてくれた。

(うるしばら・ともよし)
●既刊に『つらかんべぇ』『ぼくと戦争の物語』『ど根性ひまわりのき〜ぼうちゃん』など。

『天国にとどけ! ホームラン』
小学館
『天国にとどけ! ホームラン』
漆原智良・文
羽尻利門・絵
本体1、400円