
子どもたちとどろきょうりゅう
『どろきょうりゅう』は僕が保育の現場にいた頃に、実際にあった子どもたちとのエピソードを元に作り始めたお話です。
その当時、僕の担任していたクラスでは、泥だんご作りが流行っていました。ある日、ひとりの男の子が何日もかかって作った泥だんごを転んで割ってしまうことが起きました。
僕が声をかけても泣き止みませんでしたが、その子の一番の友達が。
「あっ! いまどろだんごからきょうりゅうでてきた!!」
と声をかけた瞬間に泣き止んで
「え? きょうりゅう? どこどこ?」と一緒に恐竜探しを始めたのでした。冗談なのかなと思いましたが、どうやら本気のようです。
それからクラスで恐竜探しが大ブーム。すべり台の下に足跡を見つける子がいたり、泥だんごを作って恐竜が出てくるのを待つ子がいたり、恐竜の絵を描く子がいたり、僕も子どもたちと一緒に恐竜探しを楽しみました。
数年後、中川ひろたかさんに出会い、このときのことを詞に書きました。少し悲しい、そして優しい曲が出来上がり、僕はこの歌を大切に大切に歌って
きました。園の現場でも、この歌が絵本になればいいのに……。そんな声がたくさん聞かれるようになりました。そして、この絵本ができたのです。
絵本の中では「死」が訪れます。死は生きていれば必ず誰しも訪れるもの。でも、そこからまた新しい命につながって物語は終わります。
子どもたちから僕は命の輝きを感じます。そして、大人がなくした大切なものを抱えて生きている子どもたちからたくさん学ぶことがあります。
僕は子どもたちのおかげでこの物語をスタートさせることができました。ぜひ、歌も聴いてみてください。子どもたちと一緒に読み聞かせながら、歌っていただけたら嬉しいです。
*歌は、『鈴木翼のGO!GO!あそびうた』(鈴木出版)他に収録されています。
(すずき・つばさ)
●既刊に『かみなりどんがやってきた』(原案)、『鈴木翼のちょこっとあそび大集合!』など。
世界文化社
『どろきょうりゅう』
中川ひろたか、鈴木 翼・作
市居みか・絵
本体1、300円