日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『くじゃくのジャックのだいだっそう』 井上よう子

(月刊「こどもの本」2016年3月号より)
井上よう子さん

クジャクは飛ぶんです

「クジャクが飛ぶ」というと、かなりの人がびっくりしますが、飛ぶんです。
しかも、空を飛ぶ時ひろげる羽は、いわゆる飾り羽をひろげた時とは、またちがう美しさで、はじめて飛翔写真を見た時は、その壮麗さに驚きました。
 まるで火の鳥のようでもあり、知らない人たちにも教えてあげたくてうずうずしていた時、フッと思いだしたのです。
 私の地元横浜には、大勢に親しまれている小さな動物園がありまして、そこではクジャクが放し飼いにされているな、と。いつも我が物顔で、歩きまわっていたっけな、と。
 このクジャクが脱走して、冒険したらどうだろう…というところから、このお話がうかんできました。
「おとこはやっぱりみかけでしょ?」と、自分の美しさに並々ならぬプライドを持つ主人公は、なにも好きこのんで脱走したわけではありません。
 なりゆきといきがかりで、動物園から飛びだすはめになってしまったのです。
「ぶざまな姿を見せてなるものか!」
この一心で、必死に矜持を保ちつつ、港町を逃げまどう主人公の様子を、くすはら順子さんが描き出してくれました。
 絵をお願いしたくすはら順子さん自身、舞台となった横浜港近辺の、大桟橋の近くに住んでいます。クジャクのジャックの逃亡の道行きが、臨場感たっぷりなのは、そのおかげでしょう。
 この本が出来てすぐ、私は舞台となった動物園に行って、クジャクにご挨拶してきました。実際には、放し飼いにされているクジャクは、何匹もいます。どの特定の一匹が主人公、というわけではないのですが、もう一度じっくりとクジャクを見たかった(会いたかった)のでした。
 この本を読んでくれた子供のうち誰かが、動物園のクジャクを見にきて、「ひょっとして、脱走したのはこいつ?」なんて想像してくれたら…。そう思っただけで、私までわくわくしてくるのです。

(いのうえ・ようこ)
●既刊に『おによりつよいおよめさん』『どこかいきのバス』『海中大探検!』など。

『くじゃくのジャックのだいだっそう』
文研出版
『くじゃくのジャックのだいだっそう』
井上よう子・作
くすはら順子・絵
本体1、200円