
クジャクは飛ぶんです
「クジャクが飛ぶ」というと、かなりの人がびっくりしますが、飛ぶんです。
しかも、空を飛ぶ時ひろげる羽は、いわゆる飾り羽をひろげた時とは、またちがう美しさで、はじめて飛翔写真を見た時は、その壮麗さに驚きました。
まるで火の鳥のようでもあり、知らない人たちにも教えてあげたくてうずうずしていた時、フッと思いだしたのです。
私の地元横浜には、大勢に親しまれている小さな動物園がありまして、そこではクジャクが放し飼いにされているな、と。いつも我が物顔で、歩きまわっていたっけな、と。
このクジャクが脱走して、冒険したらどうだろう…というところから、このお話がうかんできました。
「おとこはやっぱりみかけでしょ?」と、自分の美しさに並々ならぬプライドを持つ主人公は、なにも好きこのんで脱走したわけではありません。
なりゆきといきがかりで、動物園から飛びだすはめになってしまったのです。
「ぶざまな姿を見せてなるものか!」
この一心で、必死に矜持を保ちつつ、港町を逃げまどう主人公の様子を、くすはら順子さんが描き出してくれました。
絵をお願いしたくすはら順子さん自身、舞台となった横浜港近辺の、大桟橋の近くに住んでいます。クジャクのジャックの逃亡の道行きが、臨場感たっぷりなのは、そのおかげでしょう。
この本が出来てすぐ、私は舞台となった動物園に行って、クジャクにご挨拶してきました。実際には、放し飼いにされているクジャクは、何匹もいます。どの特定の一匹が主人公、というわけではないのですが、もう一度じっくりとクジャクを見たかった(会いたかった)のでした。
この本を読んでくれた子供のうち誰かが、動物園のクジャクを見にきて、「ひょっとして、脱走したのはこいつ?」なんて想像してくれたら…。そう思っただけで、私までわくわくしてくるのです。
(いのうえ・ようこ)
●既刊に『おによりつよいおよめさん』『どこかいきのバス』『海中大探検!』など。
文研出版
『くじゃくのジャックのだいだっそう』
井上よう子・作
くすはら順子・絵
本体1、200円