
医者をめざした女性たち
医者が男の職業だった江戸や明治時代。「女に学問はいらない」がまかり通っていたころ「女の医者がいてもいいではないか」と奮闘した女性たちがいました。この本は差別と偏見の嵐の中で医者になる夢をかなえた四人の女性のノンフィクションです。
その四人とは楠本いね、荻野吟子、吉岡弥生、小川正子です。
いねはあの有名なシーボルトと遊女「たき」の娘。赤い髪に青い目をしていたため、子どものころからつらい思いをしながらも、父と同じ医学を極め日本で初めての産科医になりました。
吟子は夫に性病をうつされ、男性医師の診察を受けるたびに羞恥と屈辱で一杯になり、これが女医だったら……という思いから医者になる決意をするのです。そして思い立ってから十二年目に、日本初の公許女医となりました。
弥生は東京女子医科大学の創立者。最初の教室は六畳一間に机とイスだけ。その後、建物だけは立派になっても、設備は頭蓋骨の標本がひとつ、顕微鏡がひとつ、試験管が十数本、フラスコ少々といった具合。生徒たちは蛙や道ばたで死んでいる犬猫を拾ってきては解剖をしました。このような苦労があって、今の医科大学があるのです。
そして正子はハンセン病患者に生涯をささげた医者でした。その検診の記録が『小島の春』という本になり、五百部限定で出版されると、見る間に三十万部の大ベストセラーになり、映画にまでなりました。しかし本人は困惑し、どんな賛辞にも耳をかしませんでした。正子は無理がたたって結核になり、四十一歳でこの世を去ります。
四人に共通しているのは、筆舌に尽くしがたい苦労をしながらも、決して夢をあきらめなかったこと。前へ前へと突きすすむバイタリティの持ち主だったことです。
読みながら「ガンバレガンバレ」と主人公たちを応援したくなる本です。夢があればがんばれる……若い人たちには「夢をあきらめないで」と伝えたいのです。
(しまだ・かずこ)
●既刊に『おどろう! みんなで手話ダンス』『カミングアウト』『不自由な手でだきしめて』など。
新日本出版社
『医者になりたい 夢をかなえた四人の女性』
島田和子・作
北住ユキ・絵
本体1、500円