日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『お昼の放送の時間です』 乗松葉子

(月刊「こどもの本」2016年1月号より)
乗松葉子さん

学校でおこる小さなドラマ

 この物語は、放送委員に選ばれた女の子と男の子が、「お昼の放送」を通して心を通わせていくお話です。
 実は、創作のきっかけになったのは、私の娘のおしゃべりでした。
 当時、小学生だった娘は、学校でのできごとを、モノマネを交えながら上手に再現するのが日課でした。
 ある日、娘は「放送委員になった!」と大喜びで学校から帰ってきました。念願のお昼の放送を担当することになり、とてもはりきっている様子です。
 ところが、いざ放送が始まると、内容をめぐってペアを組んだ友達と対立したり、原稿を忘れてアドリブで放送したり、音量のつまみがぽろりととれたり、毎週のようにマンガのようなハプニングが起こります。
 かと思えば、クラスメートから思わぬ反響があったと、自慢げに報告することもありました。
「へえ、放送委員ってなんだか楽しそう!」と娘の話を聞きながら、私の頭の中には、突如、遠い昔の学校生活がよみがえりました。
 そうそう、学校って本当にいろんなことが起こるんだよなあ、と懐かしい気持ちでいっぱいになったのです。
 もちろん、今も昔も、学校は楽しいことばかりではありません。
 ちょっとした仲間はずれだったり、苦手な給食の酢豚だったり、とべないとび箱だったり。暗い気持ちで「明日、学校に行きたくないなあ」と思ったこともあったはずです。
 でも、そんな憂鬱のタネといっしょに、宝物のような楽しい瞬間がごろごろ転がっているのが、学校というところだったっけ。
 とりわけ、「絶対にこの子とは気が合わない!」と思っていた友達と、ふと心が通じた時の驚きとうれしさといったら。ああいう奇跡は、何十年たっても忘れません。
 あの頃、日々おこっていた小さなドラマは、すっかり大人になってしまっても、ふいにひょっこり顔を出して、その人を勇気づけてくれるような気がします。

(のりまつ・ようこ)
●本書が初の著作。

『お昼の放送の時間です』
ポプラ社
『お昼の放送の時間です』
乗松葉子・作
宮尾和孝・絵
本体1、200円