日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『せんろをまもる! ドクターイエロー』 鎌田 歩

(月刊「こどもの本」2021年10月号より)
鎌田 歩さん

線路を守る仲間たち

 黄色い車体で颯爽と走りながら線路をなおす、特別な車両。私がドクターイエローに対して最初に抱いていたイメージはこういうものでした。また、「いつ走っているかわからない」「乗客は乗れない」「最新の機械を積んで、営業車両と同じ速度で走る」「見ることができたらラッキー」といった特徴もミステリアスで、わくわくします。これだけ個性があれば、のりもの絵本の主人公として大活躍できそうです。

 それでは、肝心の物語はどうするか。「ドクター」というからには、大変なことが起きても慌てたりせず、いつも沈着冷静な性格のはず。自慢の精密機械でなんでも解決してしまって、周りの仲間は大助かり……とまあ、これではあまりおもしろくありません。ならば、もしもドクターイエローがおっちょこちょいだったら? 故障を見落として大変なことになり、それを挽回するため必死でがんばるドクターイエロー……。これはもうなんでもありになってきます。ドクターイエローだからこそ描けるおはなしってなんでしょう?

 資料を見直していくと、どうもドクターイエローは派手な活躍をする車両ではないということがわかってきました。調べる中で目に留まったのが、本作でもたくさん登場する「保線車両」たち。保線車両とは、線路の安全を維持していくための作業を担う車両のこと。レールを交換したり、削ったり、バラストを入れ替えたり、架線を張り替えたり。真夜中の線路のうえでは、本当にたくさんの保線車両たちが働いているのです。ドクターイエローは、その名のとおり線路の具合を診察するお医者さん。決してヒーローではありません。保線車両のみんなと力を合わせて、線路や架線の安全を保っていたのです。そこでようやく、私が作りたいのは、線路を守る仲間たちのおはなしだということに気がつきました。

 時速300キロで走るかっこいい新幹線。その裏では、たくさんの人々や車両が安全を守っています。そんな世界を少しだけのぞいてもらえたら嬉しいです。

(かまた・あゆみ)●既刊に『ちかてつのぎんちゃん』『ヘリコプターのぷるたくん』『巨大空港』など。

『せんろをまもる! ドクターイエロー』
小学館
『せんろをまもる! ドクターイエロー』
鎌田 歩・さく
定価1,430円(税込)