日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『たぬきがのったらへんしんでんしゃ』 田中友佳子

(月刊「こどもの本」2018年1月号より)
田中友佳子さん

まじめな電車と道草を楽しんで

 しばらくぶりの絵本出版となりました。前作の絵本を出版したあと、二人の子どもが生まれ、上の子が三歳のとき、「おかあちゃん、でんしゃのえほんかいて」とねだられ、考えはじめたのがこの絵本です。息子は現在小学一年生なので、構想から完成まで四年ほどかかったことになります。本人はすでに、ねだったことも忘れています。やっと完成したのに!
 電車のお話を考えはじめて、まず頭に浮かんだのが、四角い顔で線路の上を時刻表通りにきちんと走るまじめな電車。電車の名前は、そのまんま「まじめさん」。このまじめさんが、まじめに走れない状況がおこったらおもしろいのではないか、というところから絵本作りがはじまりました。
 まじめさんが、いつもおかしなことがおこる「びっくり線」を走ることになり、乗客として乗りこんできたのが、ノリのいいたぬきたち。はじめは、たぬきたちのことを快く思わなかったまじめさんですが、次々とおこる困難をたぬきの呪文で変身することにより乗りこえると、しだいに楽しくなってきて……、という案が浮かびました。
 まじめさんが直面する困難や変身するものは、長い時間の中でいろいろ候補がありました。変身姿として変わったところでは、採用していませんが、「いもようかん」なども! 読者の方に、ワクワクしながらページをめくってもらえるよう、何度も何度も考え直して、やっと今の形にまとまりました。
 子どもたちを育てながら、ときどき思うんです。「これからの長い人生、目標を見つけて一直線に突き進むのもいいけれど、道草もしながら楽しみなさい」って。いつもとはちょっと違う道を通ると、違った景色が見えてきます。違う景色を楽しみながら、自分の道を選んでいってほしいなと思います。
 読者のみなさんには、道草を楽しむように力を抜いて、このおかしな世界を楽しんでいただけたらな、と思っています。

(たなか・ゆかこ)●既刊に『こんたのおつかい』『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』『にげだしたてじなのたね』など。

『たぬきがのったらへんしんでんしゃ』
徳間書店
『たぬきがのったらへんしんでんしゃ』
田中友佳子・作・絵
本体1、600円