日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『消えたミステリー作家の謎』 八木恭子

(月刊「こどもの本」2011年11月号より)
八木恭子さん

「ミステリータウン」へようこそ

 グリーン・ローンという小さな町に住むディンク、ジョシュ、ルース・ローズ。「ぼくらのミステリータウン」は、ディンクたち小学三年生のなかよし三人組が町や旅先で、誘拐や密猟、銀行強盗といった様々な事件に出くわし、知恵を出し合いながら事件の謎を解き明かしていくミステリーシリーズです。

 原書は 'A to Z Mysteries'という、その名の通り、アルファベット順にタイトルがつけられた全二十六巻の大シリーズで、アメリカの子どもたちに長く親しまれています。

 こわいもの知らずの三人の大胆な行動にハラハラさせられながらも、テンポよく展開していくストーリーに、読み手はいつのまにか一緒に事件の謎を追っているような気分でどんどん引き込まれていきます。

 作者のロン・ロイさんが描く登場人物はみな親しみやすく、ミステリーでありながら、全体にどこかほのぼのとしたあたたかな雰囲気がただよっています。また、お話のなかにアメリカの子どもたちのふだんの様子が垣間見られるのも作品の魅力です。

 訳しながら、私は冒険にあこがれていた小学三年生の頃を思い出しました。廃屋をおばけ屋敷に見立てて勝手にもぐりこんでみたり、家からたった三分で歩いて行ける丘をお弁当持参で探検してみたり、わけもなく家出の準備をしてみたり。おどろくような発見は何もなかったけれど、それだけでわくわくしたものです。

 もちろん、冒険は本のなかでもできるもの。「ぼくらのミステリータウン」で、ディンクたち三人と事件の謎を追いながら、日常にひそむ非日常を日本の子どもたちにも楽しんでもらえたらうれしいです。

 最後に、長きに渡り翻訳のご指導をくださり、このようなすてきな作品を訳す機会にめぐり合わせてくださったこだまともこ先生、作品のイメージにぴったりのわくわくするような挿絵を描いてくださったハラカズヒロさん、そして作品に携わってくださったみなさまに、心よりお礼を申し上げます。

(やぎ・きょうこ)●既訳書にA・メイソン『マルチ・メディアと美術 現代美術のゆくえ』。児童文学の翻訳は本作が初。

「えんまのはいしゃ」
フレーベル館
ぼくらのミステリータウン①「消えたミステリー作家の謎」
ロン・ロイ・作
八木恭子・訳 ハラカズヒロ・絵
本体800円