こどもの本

私の新刊
『メルリック まほうをなくしたまほうつかい』 なかがわちひろ

(月刊「こどもの本」2013年3月号より)
なかがわ ちひろさん

まほうの力に限りがあるなんて…⁉

 メルリックは、お城で働く魔法使い。王さまと王国の人びとの幸せのために魔法をつかいます。

 まじめで心やさしいメルリックは、人間たちに苦労をさせないようにと、王さまのプールの温度管理や、お城のペンキぬりはもちろん、一般家庭の料理、裁縫、大工仕事も農作業も、かたっぱしから魔法でやってあげました。

 だからメルリックは、てんてこまいの忙しさ。人びとは、のんべんだらり。

 ところがあるとき、メルリックの魔法が底をついてしまいました。どうやら魔法の力って、限りがあるものだったらしいのです……。

 魔法に頼りきってきた人びとは大混乱。久々にじぶんの手足を使って働き、まぬけな失敗を連発するようすがユーモアたっぷりに描かれます。ようやくめでたしめでたしとなる結末にも、おもわず、くすっと笑ってしまう、ゆかいな絵本なのですが、お察しのとおり、その風刺と問題提起は硬派です。

 作者のマッキーさんが、最初にこの物語を作ったのは一九七〇年でした。日本でも『まほうをわすれたまほうつかい』(安西徹雄/訳、アリス館)として紹介されたものの、既に絶版です。

 すると昨年、七十七歳のマッキーさんは、なんと絵をすべて新たに描きなおし、新刊絵本として出版しました。

 この物語を蘇らせ、世界に問いかけようとした熱い思いが感じられます。

「魔法の力」はいろんなものに置き換えることができるでしょう。震災後の日本に暮らす私はすぐに電力と原子力を思い浮かべました。復興予算や途上国への支援、石油、財力、ITと考えることも可能かもしれません。

 旧版はフルカラーと白黒の見開きが交互する構成でしたが、新版はすべてフルカラー。王国の人びとの肌や髪の色、衣装が多種多様になったあたりに『ぞうのエルマー』や『せかいでいちばんつよい国』を書いてきた作家らしさが、さりげなく表れています。

 さて。私たちは、生活をらくにしてくれる魔法の力と、どう向きあっていけば幸せになれるのでしょうか。

なかがわ ちひろ●既刊に『かりんちゃんと十五人のおひなさま』、「おたすけこびと」シリーズ(コヨセ・ジュンジ/絵)など。

「おやおやおやつなにしてる?」
光村教育図書
『メルリック まほうをなくしたまほうつかい』
デビッド・マッキー・作
なかがわちひろ・訳
本体1,400円