日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ゆうれい回転ずし 本日オープン!』 佐川芳枝

(月刊「こどもの本」2012年11月号より)
佐川芳枝さん

思いやりの気持ちを育てて……

 わたしは寿司屋の女将と物書きの二足のわらじを履いています。昼間は机に向かって、こつこつと文章を書き、夜は店で、「いらっしゃいませっ」と、お客様を迎えています。

 さて、この物語を思いついたのは、去年の夏のことでした。猛暑の日に、夫が、「こう暑いと、寿司が握りにくくなる。手のひらをよく冷やさないと……」とつぶやき、手を冷たい水にさらして寿司を握っていました。手のひらが温かいとシャリがくっついてしまい、形のいい寿司にならないからです。

 そのとき、突然ひらめきました。幽霊は手が冷たい。だから、幽霊に寿司を握らせたらどうだろう。主人公は寿司を握ることに未練を残して亡くなった、若い寿司職人。舞台は子どもの好きな回転寿司にしよう。従業員も必要なので、皿屋敷のお菊さんと、河童と手長小僧を入れました。手長小僧は私が考えだした妖怪なのですが、手がしゅるしゅると、どこまでも伸びるので、高いところのものを取るのにも便利。うちの店にもほしい妖怪です。お菊さんは皿に縁があるので、おもにお皿の管理。河童はカッパ巻きを作る。それぞれの役割も決めました。

 もう一人の主人公の潮君は、親思いで正義感の強い少年です。卑怯ないじめにあっても、親に言いません。親を傷つけたくないのと、子どもなりのプライドがあるからです。潮君を書きながら、そうだよね、言えないよね、とわたしは何度も涙ぐみました。幽霊たちの活躍で、いじめはなくなります。

 しかし、これでめでたしめでたしではなく、潮君が、もし自分と同じようにいじめにあっている人がいたら、絶対にかばうぞ、いじめはやめようって言うぞと決心したところを、いちばん感じとってほしいのです。読者が、自分がされていやなことは人にしないという、思いやりの気持ちを育ててくれたらと願いながら書きました。

 さらに、寿司屋の女将の習性で、おいしい寿司ネタのこともたくさん入れました。この本をきっかけに、お魚好きの子が増えてくれたらと思っています。

(さがわ・よしえ)●既刊に『寿司屋の小太郎』『ハッピィ・フレンズ』『寿司屋のかみさん とびっきりの朝ごはん』など。

「ゆうれい回転ずし 本日オープン!」
講談社
『ゆうれい回転ずし 本日オープン!』
佐川芳枝・作
やぎたみこ・絵
本体1,400円