日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『どすこい!』 森埜こみち

(月刊「こどもの本」2023年6月号より)
森埜こみちさん

ぶつかるのは気持ちいい

 どうして相撲なの? 相撲、そんなに好きだった? みんなに、きかれました。答えはふつう、なのです。

 ただ、思い出す写真があります。幼稚園のホールで、男の子を相手に相撲をとっているのです。このわたしが。絶対に負けるもんかと思っているのがわかる顔をしています。おとなしい子だったのですが、こんなにも負けず嫌いであったか。

 子どものころは、この写真を見るとげんなりし、なんでアルバムに貼ってあるんだろうと恨めしく思いました。

 それから、うん十年。わたしがいま住んでいる地域で、子どもたちの相撲が盛んなのだと知りました。男の子ばかりではありません。女の子も。お母さんたちにきいてみました。まわしをつけるの、恥ずかしくはないのかな?

 答えはノーでした。三年生になってはじめてつけてもらえるようになるのだけど、そりゃあ喜んだわよ。

 ほう、そうでしたか。大きな体育館でおこなわれる学校対抗の相撲大会を見に行きました。そこで再会することになったのは、そう、かつてのわたしです。絶対に負けるもんか、のかたまり。もちろん、その気持ちを顔にだす子もいれば、ださない子もいます。けれど負けたら悔しいのは同じ。泣くのです。涙をひと粒ほろりとこぼす子もいれば、人目をはばからず大泣きする子もいる。でも、負けず嫌いは、みんな同じだったね。

 勝ちたいというシンプルな気持ちをベースに物語をつくってみました。

 駄菓子屋のじいさんは元力士で偏屈者。主人公と彼の親友は、勝ちたい一心で近づいていきますが、相手にされません。挙句ふたりは、とんでもないことをしでかしてしまいます。自分たちがいやになる日もありますが、それでもやっぱり相撲は好き。そしてそんな日々のなかで、三人のなかに、なにかが通いはじめます。

 さてさて。アルバムのなかのあの写真ですが、探してみましたが見つかりません。どこにいったのかなあ。あれば、ここにと思ったのですが、残念。

(もりの・こみち)●既刊に『わたしと空の五・七・五』『蝶の羽ばたき、その先へ』『すこしずつの親友』など。

『どすこい!』
国土社
『どすこい!』
森埜こみち・作/佐藤真紀子・絵
定価1,540円(税込)