日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『野鳥のレストラン』 森下英美子

(月刊「こどもの本」2023年5月号より)
森下英美子さん

記憶の中の「野鳥のレストラン」

 この本が出る少し前、ダニやゴキブリ、カラスといった「人に嫌われる生きもの」の研究者の集まりで、「どうして専門の違うふたりで本を作ってるの?」と聞かれました。「学生時代の友人なんですよ」と答えると納得してくれましたが、「新開さんは、昆虫の世界ではものすごい人なんですよ」と言われ、旧友だからと気遣いなくつきあっている自分を見透かされたようでした。

 この本を作っているうちに、学生の頃の記憶がよみがえってきました。私たちの研究室は5階にあり、窓から下にある木がよく見えました。そこにヒヨドリが出入りしていて、巣があるようでした。新開君が写真を撮りたいというので、一緒に見に行くことになりました。巣は手が届くくらいの高さにあり、巣のへりにそっと手をおくと、ヒナが3羽、口を大きく開け、小さな首を伸ばして、フルフルと揺らしながら食べものを求めたのです。新開君は、黙ってシャッターを切り続けていました。私は、親鳥のような何ともいえない気持ちになってその様子を見つめていました。でも口では、「親鳥が巣のへりに止まると、その刺激でヒナたちは反射的に首を上げるのだ」などとそれらしく説明して、早めに巣から離れるように促したのでした。

 この本のため、私の横でシャッターを切り続けた新開さんの写真には、野鳥観察歴だけは長い私も気づかない瞬間が・捕らえられていて、新鮮な気持ちで言葉を載せることができました。

 絵本で読んだことは、子どもの知識となって長く記憶に残るので、本文は、論文を調べたり、他の研究者に問い合わせたり、フィールドで会った鳥の研究者に確認してもらったりして、念を入れて確かめながらまとめました。こう書くと堅苦しく思われるかもしれませんが、その作業は、とても楽しいものでした。食べあとの確認のために連絡したカブトムシの研究者が野鳥好きで、話が弾んだこともありました。

 少し専門的に解説したこの本は、生きものが大好きなお子さんとご家族で、一緒に楽しんでもらえればと思います。

(もりした・えみこ)●既刊に『カラス、どこが悪い!?』(共著)、『地球市民を育てる 〜子どもと自然をむすぶ〜』(共著)など。

『野鳥のレストラン』
少年写真新聞社
『野鳥のレストラン』
森下英美子・文/新開 孝・写真
定価1,980円(税込)