日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おとなになれたら』 渋谷弘子

(月刊「こどもの本」2023年4月号より)
渋谷弘子さん

コーンウェルさんの思いを胸に

『おとなになれたら』は、クリストフ三部作(『お話きかせてクリストフ』『君の話をきかせてアーメル』『ソフィーの秘密』いずれも文研出版刊)の作者ニキ・コーンウェルさんの最後の作品です。コーンウェルさんは、戦争や紛争のために理不尽な苦しみを経験しながらも、なんとかふんばって、ひとすじの希望を胸に生きぬいていこうとする人たちの姿を書き続けてきました。『おとなになれたら』も、戦乱の祖国コンゴ民主共和国を脱出し、イギリスでさらなる試練に耐えながら新たな人生を切り開いていく人たちの物語です。コーンウェルさんは、ソーシャルワーカーとして避難民や難民に話を聞き、そうした人たちを助けたり支えたりした経験から作品を生み出してきました。

 コーンウェルさんは心臓病を患い、医者には「静かに逝かせて」と言いながら、わたしに「この作品を日本で出版することはできないだろうか」と言ってきました。編集者もわたしも、なんとか彼女が生きているうちに日本語版を届けたいと思いました。あと少しのところでその願いはかないませんでしたが、牧野鈴子さんに描いていただいた表紙の絵だけは見てもらうことができました。牧野さんの絵には、どんな困難も乗り越えていく人間の強さと、絶望の先にある希望がみごとに表現されています。

 わたしはコーンウェルさんの思いをちゃんと日本語で表すことができたでしょうか。戦争や紛争で苦しむ人のいない平和な世界を築きたいという彼女の思いをみなさんの心に届けることができるでしょうか。もし、この本を読んでくださった方が、「平和のためになにか行動したい」と思ってくださる日が来たら、そのときは、天に向かって声をかぎりに叫びたいと思います。

「コーンウェルさーん、あなたの思いは日本の読者に届いていますよ。平和を実現したいというあなたの強い思いはちゃんと受け継がれていますよ!」と。

(しぶや・ひろこ)●既訳書に『正義の声は消えない』『ぼくたちのスープ運動』『バイヤード・ラスティンの生涯』など。

『おとなになれたら』
文研出版
『おとなになれたら』
ニキ・コーンウェル・作/渋谷弘子・訳/牧野鈴子・絵
定価1,650円(税込)