日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『鈴の音が聞こえる 伝えるということ』 辻 みゆき

(月刊「こどもの本」2022年11月号より)
辻 みゆきさん

伝えるということ

 五月の風が少し元気すぎるので、窓際の席の子が、窓を少しだけ閉める。

 教科書の文中に出てくる「ろくろ」がどういうものかわからず、「ドクロ?」「頭蓋骨?」「海賊船?」「いや、とぐろ?」「蛇?」。言葉が無数に広がり、教室に笑いが起こる。

「じゃあ、このことをノートに書いて」先生がそう言うと、ノートにカカカ……と、点筆(点字用の筆記用具)で点字を打っていく。

 盲学校の様子を教えて頂きたくて、筑波大学附属視覚特別支援学校にお邪魔させて頂きました。これは中学一年の全盲生徒のクラスでの、国語の授業でのひとコマです。

 明るくて、伸び伸びしていて。もちろん、その笑顔の下には、ひとりひとり悩みもあることでしょう。「私が中学生だったときと同じだな」と、とてもうれしくなりました。

 障害とはなんでしょう。

 鳥から見れば、羽のない人間は障害を持った生き物に見えるかもしれません。でも、人間社会ではそれが大多数(マジョリティー)ゆえ、羽がないことを障害と思う人はいないでしょう。

 この社会においての障害とは〝たまたま社会の少数側(マイノリティー)に属することになった〟という側面が強いのではないかと思います。

 この物語の主人公・朝生美空は、その〝たまたま〟の中のひとりです。

 視覚に障害のある女の子──当然、福祉に関わる問題も絡んできます。でも、この物語では、それはほんの一部にすぎません。

 本書のサブタイトルは「伝えるということ」です。思いを伝えるって、どういうことだろう。そもそも、思いってなんだろう……。

 物語の発想は、いつも雲をつかむようなところから始まります。何かをやっとつかんだかな、と思えたときにはもう、主人公・美空は、わたしの頭の中で、自由に動き始めていました。

 読んでくれた人の心に、何かが伝わりますように。

 そう祈っています。

(つじ・みゆき)●既刊に『家族セッション』『あの日、そらですきをみつけた』「小説 ゆずのどうぶつカルテ」シリーズなど。

『鈴の音が聞こえる 伝えるということ』
講談社
『鈴の音が聞こえる 伝えるということ』
辻 みゆき・著
定価1,540円(税込)