日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『伝え守る アイヌ三世代の物語』 宇井眞紀子

(月刊「こどもの本」2022年6月号より)
宇井眞紀子さん

隣にいるアイヌの家族

 二〇一〇年、大阪でアイヌの活動を続けるひろ子さんの家を初めて訪ねた。全国のアイヌの皆さん一〇〇組のポートレートと「今一番言いたい事」を載せて写真集を編むプロジェクト『アイヌ、100人のいま』の撮影のためだった。娘さんのワカナはまだヨチヨチ歩き、息子さんのダイキもまだ就学前だった。その頃、東京と大阪をよく行き来していた私たちは、お互いの家の鍵を預け合うほど親しくなった。

 ひろ子さん一家は、毎年、長期の休みには北海道に住むじいじ・ユキオさん宅で過ごす。その内、その期間には私もユキオさんの家にお邪魔するのが恒例となった。ユキオさんは、アイヌ伝統の木彫り作品の作家だが、住んでいる家の内装もお風呂でさえも、何でも自らの手でつくってしまうかっこいいじいじだ。そんなじいじが大好きで尊敬している孫たち。特段「アイヌらしい」生活ではないけれど、モノを無駄にしない考え方、人間以外も同等に大切にしている事が暮らしのそこここで感じられた。アイヌが大切にしてきた考え方が、祖父から母にそして孫に静かに紡がれていく様子をカメラに収めてきた。

「子ども向けの写真絵本をつくりませんか」と少年写真新聞社からお声がけいただいた時、大変嬉しく思った。ずっと子どもたちにもアイヌの事を伝えたいと考えていたからだ。しかし、一〇年以上撮影してきた三世代の写真は、膨大な数になっていた。それを四〇ページの絵本にまとめる事は、とても難しく途方にくれた。迷いながらも構成を考えていた時、ひろ子さん一家が大阪から北海道に移住する事が決まったのだ。これで、一つの物語が完結すると思った。「必要な時に必要な事が起こる」とアイヌの方々からよく言われるが、まさにそれが起きたと感じた。そして、編集がすでにかなり進んでいたにもかかわらず、引越しに密着し、移住後の生活も三度取材に行った。写真を追加したり変更したり、本当にギリギリまで修正を重ねてこの写真絵本が出来上がった。

(うい・まきこ)●既刊に『アイヌ、風の肖像』『アイヌ、100人のいま』など。

『伝え守る アイヌ三世代の物語』
少年写真新聞社
『伝え守る アイヌ三世代の物語』
宇井眞紀子・写真・文
定価1,980円(税込)