こどもの本

私の新刊
『バッタさんのきせつ』 佐々木田鶴子

(月刊「こどもの本」2012年7月号より)
佐々木田鶴子さん

スイスの自然を感じさせる、クライドルフの絵本

 飛行機の窓からスイスを見おろすと、切り立った四、五千メートルの高山が幾重にもそびえ、谷間深くには細い川が白く光っています。スイスの人々は、こんなけわしく美しい山々のふところに抱かれて、何世紀も暮らしてきたのです。けれど、谷間を歩いてみると、高い峰を背景に針葉樹の森や緑の野原が広がり、牧場には小さな花が咲き乱れていて、まるで別世界にいるようです。

 エルンスト・クライドルフは、スイスを代表する絵本作家のひとりです。彼は幼い頃から、アルプスのふもとの農家でまわりの自然と親しみながら育ちました。この絵本『バッタさんのきせつ』には、そんなスイスの美しい自然を背景に、春から冬までのバッタさんたちのさまざまな生活の場面が描かれています。ユーモアあふれる画面からは、小さな昆虫や蝶々、アルプスの植物に向けるクライドルフのやさしいまなざしが伝わってきます。見ていると、まるで私たちまでが草原にいて、昆虫たちと同じ大きさになっているように感じます。

 クライドルフは若い頃にリトグラフと絵画を学び、後にミュンヘン美術大学でも絵の勉強をしました。本書は一九三〇年に出版され、刊行当初から高い評価を得ました。当時はデザイン化された植物や昆虫が、美術や工芸分野で流行していましたが、クライドルフの擬人化された動植物は、自然のありかたに忠実に描かれています。

 今回、日本でも、クライドルフの緻密で美しい原画を見る貴重な機会に恵まれることになりました。

「スイスの絵本画家 クライドルフの世界」展が、六月十九日~七月二十九日に東京のBunkamura ザ・ミュージアムで開催され、その後、郡山市立美術館(福島)、富山県立近代美術館(富山)、そごう美術館(横浜)にも巡回される予定です。

 クライドルフが愛したスイスの風景のなかに、ひととき浸ってみませんか。

(ささき・たづこ)●既訳書にO・クネッケ『はっぱをつかまえて!』、『グリム童話集』(上・下)など多数。

「バッタさんのきせつ」
ほるぷ出版
『バッタさんのきせつ』
エルンスト・クライドルフ・作
佐々木田鶴子・訳
本体1,500円