日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『みどりバアバ』 ねじめ正一

(月刊「こどもの本」2020年12月号より)
ねじめ正一さん

大切な人の死

『みどりバアバ』は、私の母をモデルにしている。母の名前もみどりで、三年前に亡くなった。

 若い時からの店番と、先に亡くなった父の二十三年介護で、まず足腰が弱り、自力で歩けなくなった。それと並行するように認知症になり、最後の二年間は寝たきりで、肺炎にかかって九十二歳で息を引き取った。

 絵本で、みどりバアバは孫のこうくんを「こうくんちゃん」と呼び、こうくんの父さんと母さんと商店街で花屋をしている。花屋のお店が大好きで、コロッケを作るのが上手で、こうくんは、みどりバアバが大好き。

 ところが、ある日、みどりバアバの手が動かなくなり、みどりバアバは花屋で働けなくなった。それでも、みどりバアバは花屋に行き、父さんに言う。

 「はなやは わたしにとって、いきることなんだよ」

 こうくんも、「そうだよ。みどりバアバの いきるなんだよ!」と、父さんに食ってかかる。

 私の母みどりも、ねじめ民芸店の店番が大好きで、父の介護を頑張れたのも、店番に一日でも早く復帰したいという思いからだった。それに、コロッケが得意で、百合の花が大好きだった。

 母の葬儀の日、母から見ればひ孫になる子どもたちの中には、死んだ母の姿を怖がって近寄らない子もいたが、お棺にひとりひとり花を入れる時になると、子どもながらに「死」を受け入れ、母の手をさすったり、頬をなでたりする子もいた。

 葬儀のあと、私は五歳の孫と民芸店の前を通った。そのとき、孫がシャッターの郵便受けの小窓に顔をくっつけ、暗闇の店の中を見続けてから言った。

 「じぃーっと見てたら、暗いのに慣れて、みどりバアバが見えた」

 「生」と「死」には境界があるが、でもひょっとして、境界はなくて日常の「生」の中に「死」が溶け込んでいるのかもしれないと思うことがある。

 大切な人の死は、決して怖いものではないのだ。のこされた人の中に、温かく生き続けるのだから。

(ねじめ・しょういち)●既刊に『みどりとなずな』『ぞうさんうんちしょうてんがい』『そらとぶ こくばん』など。

『みどりバアバ』"
童心社
『みどりバアバ』
ねじめ正一・作/下田昌克・絵
本体1,400円