こどもの本

私の新刊
『ねずみのおきょう』 ひだ きょうこ

(月刊「こどもの本」2020年3月号より)
ひだ きょうこさん

「おんちょろちょろ」と、つぶやきながら

 この『ねずみのおきょう』は、修行中の小坊主が主人公です。ある日、法事に行くのですが、お経が読めない小坊主は穴から顔を出したねずみの様子をお経にしてしまいます。「おんちょろちょろ…」 その家の婆様もそのお経が気に入って、一緒に楽しくお経を読んで、後にどろぼうを追い払ってしまうというユーモアのあるお話です。

 私も絵本の絵を描きながら「おんちょろちょろ…」。ところが、つぶやきながら頭の片隅で「ざんげ」の思いをかみしめておりました。

 それは、私がまだ幼かった頃、祖父の葬儀中の出来事。正座でしびれる足と戦い、がまんの時間を過ごしておりました。そういう時間の中の子どもというのは「おそろしい」もので、何か気を紛らわすものを見つけてしまうのです。聞こえて来るのはお坊様のお経と木魚の音だけ。「ポクポクポク…ポクポクポク… 」そう、お坊様が叩く木魚の音だけがやけに甲高く、すっとんきょうに聞こえてきたのです。気になるとだんだんとおかしくなり、「笑ってはいけない」と、思えば思うほどおかしくてたまらない。ついに「くすくすくす…」と、笑い出してしまったのです。そう…お経を読んでいるときに。なんとも不謹慎な子どもです。そしてまずいことに、私が肩を震わせて笑うものだから、つられて従兄弟たちも笑いだしてしまったのです。なんて無礼な孫たちであろうか…。さぞ、ご先祖様もご立腹であったでしょうに。お坊様は顔色変えず席を立たれましたが、取り返しのつかない事態を招いてしまい大いに反省したのでした。

 さて、そんなことを思い出しながら絵を描いていると、ふと、心配事が。それは、この『ねずみのおきょう』を読んくれた幼い子どもの中に、もしかしたらお坊様のお経中に「おんちょろちょろ…」と、つぶやいてしまう子どもがいるかもしれないと。作家としてはうれしいやら、困ったことやらの複雑な心境です。どうかこの世の皆様もあの世の皆様も子どもたちを大目にみていただけますように。

(4月上旬発売予定)本体1,300円●既刊に『ゴロゴロドーン かみなりさまおっこちた』(正岡慧子/文)、『おおかみとキャベツばたけ』など。

『ねずみのおきょう』"
ひかりのくに
『ねずみのおきょう』
川村たかし・文/ひだきょうこ・絵
本体1,300円