日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うちに帰りたくないときによむ本』 川﨑二三彦

(月刊「こどもの本」2019年11月号より)
川﨑二三彦さん

だれにも知られず苦しむ子どもたちへ

 ある日突然、本書の発刊元である少年写真新聞社から電話があった。

「親から虐待された子どもたちに、・だれかに話してみよう・というメッセージを伝える絵本を企画しています。虐待問題にかかわる川﨑さんに、監修していただきたいのですが……」

 こう言われてすぐに浮かんだのは、そんな本を買う親なんて、どこにもいないのではないかということ。

「出版されても、赤字になりませんか?」

 思わずこんな返事をしてしまったのだが、考えてみると、虐待されていても、自ら助けを求める子どもは百人に一人もいない。家庭という密室で、だれにも知られぬまま訴えることもできず、虐待に苦しむ子どもたちに、援助につながるさまざまな形があることを伝えるのはとても大切なことだと思い直し、協力を約束した。

 さて、紆余曲折の末に完成した絵本を見て、子どもの気持ちがそのまま伝わってくる北原明日香さんの絵に深く納得。これを手にした子どもたちも、おそらくは大なり小なり自身に引き寄せて読むのではないだろうか。

 と、考えて気づいたことがある。本書は、家庭のトラブルを抱えた子どもたちに、だれかに相談することを促すことを意図して作られたものだが、実際に援助を受けて里親や児童福祉施設、あるいは児童相談所の一時保護所などで過ごす子どもたちも、本書に登場する「ぼく」や「あいつ」に共感しながら自身のことを振り返り、明日を生きるなにがしかの力を得ることができるように思われたのだ。

 当初は編集者の思いを汲み取れず、揶揄するような発言をした軽率さを、完成作品の力によって思い知らされたのだが、折しも、児童虐待防止法の改正で、「しつけに際して体罰を加えてはならない」ことが法に明記された。そのような社会の動きも念頭に、援助を必要としている子どもたちや現に援助を受けている子どもたちはもちろん、子どもにかかわるすべての大人たちにも、この絵本を届けたいと思う。

(かわさき・ふみひこ)●既刊に『虐待死 なぜ起きるのか、どう防ぐか』『虐待「親子心中」 事例から考える子ども虐待死』など。

『うちに帰りたくないときによむ本』"
少年写真新聞社
『うちに帰りたくないときによむ本』
川﨑二三彦・監修、北原明日香・絵
本体1,800円