日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『12歳で死んだあの子は』 西田俊也

(月刊「こどもの本」2019年9月号より)
西田俊也さん

クラスメートのお墓

 卒業まであと一カ月もない冬の日の朝、担任の先生がいいました。

「昨日の夕方、Sくんが……亡くなりました」

 Sくんは病気でしばらく休んでいました。でもクラスのだれもが、耳を疑いました。

 教室のSくんの座っていた席には、卒業式の日まで花が飾られました。

 ぼくはそれほどSくんと親しいわけではなかったし、泣くのは恥ずかしいので涙を見せたりはしなかったけど、卒業したあと、ときどき思い出すことがありました。

 何年かして、久しぶりにクラスの仲間が集まりました。

 楽しい時間があっという間にすぎたのですが、帰り道、そういえばだれもあの子の話をしなかった、と気がつくと、しんどくなりました。

 数日後、町でばったり会ったクラスメートの女の子と話したとき、ぼくと同じことを考えていたと知りました。

「いまもよく思い出すの。ねえ、お墓がどこにあるのか知ってる?」

「わからない。……もし、わかったら行こうか」ぼくは女の子にいいました。

 じつはぼくは小学校の中学年くらいまで、お墓がこわくて、横を通るのもさけて歩くような子どもでした。そのころよりはいくらか少しマシになっていたけど、まだ苦手でした。

 でも、あの子のために行かなければ、という気持ちになったのでした。

 ぼくらにとっては、すべてが初めてのことで、なかなか簡単にはいきませんでした。クラス全員に声をかけるべきか。親しくなかった自分が中心になってもいいのか。そもそもお墓に行くことにどんな意味があるのか……。

 この物語は、実際にあったこうした出来事から生まれました。

 十代のころに、友だちの死を経験する人は多くないでしょう。でも死を考えたことがない子はいないはずです。

 子どもたちが死について考えるとき、この本が少しでも役に立てば、若くして命を終えたあの子も、きっと喜んでくれるだろうと思います。

(にしだ・としや)●既刊に『両手のなかの海』『ハルと歩いた』など。

『12歳で死んだあの子は』"
徳間書店
『12歳で死んだあの子は』
西田俊也・作
本体1,600円