こどもの本

私の新刊
『100年たったら』 石井睦美

(月刊「こどもの本」2019年6月号より)
石井睦美さん

くりかえし巡り合う物語

 あるときは、海辺で隣り合った砂粒どうし。あるときは、黒板とチョーク。あるときは、レジスターとコイン。そんなふたり(すべて無機物だけど)が、時を隔て巡り合う物語を書いてみたいと思ったのは、四十年も前の物語をひとつも書いてはいなかったころのこと。

 時が経ち、編集のひとから死をテーマに絵本のテキストを書きませんかという誘いを受けた。ぜひ!と答えたものの難しく、たちまち何年かが過ぎてしまう。

 わたしを見かねた彼女から、絵描きさんを決めるとイメージがわくかもしれないと提案され、それならばあべ弘士さんといっしょに絵本を作りたいと希望した。

 そんなある日、夏目漱石の『夢十夜』を読み返した。その一話目はことに幻想的だ。夢のなかで出てきた女がもう死にます、死んで百年後に生き返るといって、ほんとうに死んでしまう。夢のなかで日と夜は次々と過ぎ、ついに死んだ女を埋めたところから、真っ白い百合の花が咲く。百年がたったのだ。そういう物語だ。

「100年たったら」。そうだ、これだ。これを書こう。死の物語であると同時に生の物語、つまり命の物語を書こう。あべさんの絵が「100年たったら」という物語を完成させてくれる。そう思ってからは、物語のほうが勝手にやってきた感じだった。

 まず草原にひとりぼっちで暮らすライオンが、やがてそのライオンのもとにちっぽけな鳥がやってきた。運命のふたり。大自然のなかでは小さく弱い存在の鳥が、大きく強いライオンを励まし、守る。生まれ変わっても、当人たちは気づかなくても、なぜか強く惹かれあう。

 そして最後、ライオンと鳥は、男の子と女の子に生まれ変わる。物語が、未来につながっていくことを願う気持ちも自然と生まれてきたものだった。

 あべさんの愛情深い力強い絵が、もう言葉なんていらないくらいすべてを語っている。できあがった絵本を手にして、心から思った。

(いしい・むつみ)●既刊に『つくえの下のとおい国』『カイとティム よるのぼうけん』『ちいさな魔女とくろい森』など。

『100年たったら』"
アリス館
『100年たったら』
石井睦美・文/あべ弘士・絵
本体1,500円