日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『漢字はうたう』 杉本深由起

(月刊「こどもの本」2018年12月号より)
杉本深由起さん

漢字の詩、
絵本にしたわけは……

 普段はむっつりと黙っている漢字。でも、目をこらしてじっと眺めていると、あら不思議! 

 漢字がやわらかく呼吸を始め、いろんなうたをうたいだすではありませんか。語源や成り立ちにしばられず、いきいき、のびのびと……。

 その面白さに惹かれて、この二十年余り、漢字から詩を作ってきました。

「この漢字には、どんな字が隠れているかな?」たとえば、天なら一と人と大。すると、こんな詩ができました。

「一人でいても/一人ぼっちじゃないんだね/大きな だれかが/天から みてる(略)」

「この漢字、何に見える?」と漢字そのものが持つイメージをふくらませてみたら、こんな詩が。

「冬という字の/そとは ふぶき/(略)やねのなか/冬ごもりしている/テンテン ふたつ/かあさんぐまとうまれたばかりのこぐまです(略)」

 この面白さを、子どもたちにぜひ伝えたいと思いました。

 それには、そうだ、絵本がいい!

 良い絵には、一瞬にして世界を伝える力があるから、詩の世界を、もっと豊かに楽しく、子どもたちに届けられるはず。

 この絵本では、ひとつひとつ独立した詩を季節の巡りにそってならべましたが、さらに画家さんのアイデアで、朝から昼へそして夕方へと移りゆく一日の時間の流れも意識してみました。

 読者を漢字の世界に誘うため、漢字の「字」をベレー帽をかぶった子どもに見立て、ラストは「またね!」と再会を約して去っていくストーリーに組み立てました。漢字の子どもが風船につかまって空に飛んでいくという発想豊かな絵が素敵ですよ。巻末の解説も楽しんでいただけるといいな。

 絵を描いてくださった吉田尚令さん、デザイナーの椎名麻美さん、あかね書房編集者の榎一憲さん、みなさんが才能と知恵を結集してくださったおかげで、この絵本が生まれました。

 漢字の気持ちと物語を、楽しく味わってもらえるとうれしいです。

 

(すぎもと・みゆき)●既刊に『ひかりあつめて:ことばの力でいじめを超える!』『いつだってスタートライン』など。

『漢字はうたう』"
あかね書房
『漢字はうたう』
杉本深由起・詩
吉田尚令・絵
本体1、300円