日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本34
金の星社 池田真純

(月刊「こどもの本」2012年4月号より)
空とぶペンギン

『空とぶペンギン』
やまだともこ/作、いとうみき/絵
2011年11月

「ペンギンは鳥の仲間なのに、どうして空を飛べないんだろう?」

 ふしぎに思ったことはありませんか?

 この『空とぶペンギン』の中に出てくるペンギンは、こんな風に答えています。ペンギンはもともと空を飛べるのに、「ペンギン協定」で飛ぶことを禁止されている─。

 やまだともこ先生から原稿をいただいたとき、そのユニークな発想に心をわしづかみにされました。しかも、ペンギン協定で禁止されることになった理由が、またおもしろいのです。昔、空を飛べて、海も泳ぐことができたペンギンに、他の鳥たちがやきもちをやいて、空か海かどちらかにしろと迫ったというのですから、想像すると笑ってしまいます。

 じつは、おもしろいと思うと同時に、ドキッとしたところがありました。「ペンギンって、飛べない鳥だとずっと思ってた」という女の子に、ペンギンが「人間が勝手にそう思っているだけさ。本当は飛べるのにね」といって、あきれた顔をする場面です。

 子どもの頃は、目に入るものすべてがふしぎで、「なんで?」「なんで?」と質問攻めにして、親を困らせたものです。でも、いつからか、疑問に思うことは少なくなりました。成長するにつれて知識が増えたのもありますが、理由を考えることもなく、自然と「そういうものなんだ」と感じることが多くなったのだと思います。純粋な好奇心をなくしていっている自分に気づかされ、ドキッとしたのでした。

 絵は、いとうみき先生にお願いしました。打ち合わせでは、ペンギンの図鑑や写真を見て、赤ちゃんペンギンのかわいさにメロメロになりながら、ペンギンがどのように飛ぶかを話し合いました。図鑑の中に、ペンギンが海の中から氷上へ向かって飛び上がる写真があり、それをヒントにしていただいたようです。表紙で、満月を背に、大きなおなかを少し重そうにして飛んでいるペンギンの姿は、なんともいえないおかしさがあって、とても魅力的です。

 ところで、二〇〇八年にイギリスのBBCが放送した「空とぶペンギン」の映像をご存じでしょうか。最初は氷上をよちよちと歩いていたペンギンたちが、しだいに氷をけって走り出し、いっせいに大空へと羽ばたくのです。これはエイプリルフールに合わせて作られた、もちろんウソの映像ですが、ペンギンたちが悠々と空を飛ぶ姿は圧巻です。

 この本では、ペンギンのひみつを知った女の子が、「こんなにおもしろいことを知らないままでいるなんてもったいない」と思いますが、この映像を見て、私もそう感じました。ものごとを杓子定規にとらえずに、ふしぎに思ったことには、「知りたい」という気持ちを持ってほしい─そんな思いがこめられた、夢いっぱいのお話です。