日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『夏がきた』 羽尻利門

(月刊「こどもの本」2017年12月号より)
羽尻利門さん

夏がきた!

 皆さんは、どんなことに「夏がきた」と感じますか? 蝉の声・プール・花火・冷やし中華の貼り紙……答えは、まさしく十人十色。何に「夏がきた」と感じるかは、その人が育ってきた環境や習慣の一端を表しているのかも知れませんね。

 私の住む徳島県阿南市には、「日本の渚百選」の一つである「北の脇海岸」があります。普段はひっそりとした浜ですが、毎年六月から海の家が建ち並びます。一気に賑わいを見せる浜の光景は、地元の人にとって、まさに「夏がきた」の瞬間です。

 私が、北の脇で海の家に出会ったのは、二〇〇八年の夏、徳島に引っ越してきた直後のことでした。素朴な木枠に色とりどりの飾りつけがされた佇まいや、御座を敷いた桟敷席の上で、地元の人がビールやおつまみを楽しみながら語らう声が、波打ち際まで届いてくる様子に、海の町らしい日常の営みの美しさを感じ、心を奪われました。そして、「海の家が日常の中に登場する絵本を作りたい」との思いが、ごく自然と私の心の中に生まれたのです。

 それから約九年。あすなろ書房さんとのご縁で、この夢は実現にいたりました。しかし、画家の私にとって、文章も手がけることは、困難の連続でした。画風や文章の推敲に悩んだ時、編集の吉田さんがいつも的確な提案をして下さいました。結果生まれてきた作品は、ストーリー展開も登場人物の関係性も、文章よりむしろ絵で表現するスタイルとなり、画家出身の私らしいものになりました。

 また、本作では、絵を見て楽しめるように、様々な工夫もしました。例えば、表紙カバーは、海辺の里山を描いた大パノラマですが、よく見ると、小さな五つの平仮名が…これ以外にも、背景の人物や猫にもストーリーがあったりと、何度もページをめくりながら新たな発見を楽しんでもらいたいです。
「本屋で『夏がきた』が並び始めたら、・夏がきた・と感じますね!」─こう言ってもらえるような、夏の定番作品になることを願ってやみません。

(はじり・としかど)●既刊に『ごめんなさい』(サトシン/文)、『花まつりにいきたい』(あまんきみこ/文)など。

『夏がきた』

あすなろ書房
『夏がきた』
羽尻利門・作
本体1、300円