日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『狐霊の檻』 廣嶋玲子

(月刊「こどもの本」2017年7月号より)
廣嶋玲子さん

「あぐりこ」から十年

「うちの近所に、妊婦さんを助けて、出産を手伝ったという狐が祀られているんですよ」

 作家仲間の菅野雪虫さんの一言が、『狐霊の檻』を書くきっかけとなりました。

(そう言えば、お稲荷さんはたくさんあるけれど、もしかして、それぞれにエピソードがあるのかしら?)

 興味を持った私は、あれこれ調べてみることにしました。そして、秋田のあぐりこ神社にたどり着いたのです。

 その神社の狐は、女の子の姿で現れては、田植えや稲刈りを手伝ってくれるというのです。そして、狐が手伝った田んぼは、必ず大豊作になるという。

 その由来が、なぜか心に残りました。同時に、狐の化身である女の子の姿も、頭に浮かんできました。きれいで、謎めいた女の子。でも厳しいような、悲しいような顔をしていて、檻の中に閉じ込められている。

 イメージと一緒に、どんどんストーリーがわきあがってきて、気がつけば夢中で書いていました。

 そうして二〇〇七年に、『狐霊の檻』の土台である作品、「あぐりこ」が完成しました。

 でも、そこからが長丁場でした。なかなか納得した作品に仕上がらなかったのです。とにかく、書き直しては消し、書き直しては消しました。

 ようやく納得できるものが出来あがり、新たに『狐霊の檻』というタイトルとなって本になった時には、なんと十年が経っていました。ですので、完成した本が届いた時は、本当に手が震えました。やっと辿りつけたと、しみじみ思いました。

 私は、昔から日本に息づいている不思議なものが大好きなのです。妖怪、幽霊、神霊、祖霊。実際に感じる力はありませんが、そういうものを信じていますし、ごく身近であってほしい。『狐霊の檻』を読んでくれた人が、私が信じている不思議なものの気配を、作中で感じてくれたらと願っています。

(ひろしま・れいこ)●既刊に「はんぴらり!」シリーズ、「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」シリーズ、「もののけ屋」シリーズなど。

『狐霊の檻』
小峰書店
『狐霊の檻』
廣嶋玲子・作 マタジロウ・絵
本体1、500円