日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『スウィング!』 横沢 彰

(月刊「こどもの本」2012年3月号より)
横沢 彰さん

思春期の記憶

 中学三年の夏に、僕の反抗は始まった。それが、ちょっと遅く訪れた僕の思春期の始まりだった。

初めは母親に、そして、次に父親に僕の反抗は向けられた。父のすべてを否定し、避け、憎んだ。親を代表とする大人や社会に反発し、何のために生きるのかという、つかみようもない悩みに僕の心は閉ざされた。それはかなり長い間続き、自分自身も苦しんだ。

いま、その頃の父の年齢になり、子をもつ親となって振り返ると、あの苦しみと反抗は、僕自身の自立のための大事なもがきだったのだと、思えてくる。

 そして、ある時、はっと気づいた。長く反抗し否定してきた父親のことを、嫌いではなかった時が僕にもあったのだと。それどころか、まだ小さかった頃、僕は父親のことが大好きだった。働き者で、力があって、強くておもしろくて、少しこわくて、何でも知っていて、人のために働く父は、小さい頃、僕の自慢だった。思春期に反抗を始めてから、すっかり忘れていた記憶。それを思い出した時、泣けた。両親は僕に思う存分反抗させてくれていたのか。

 陰湿になり、苛立ち、荒れていた僕に動じることもなく、かといって理想的で立派な親であるというわけでもなく、困ったもんだと、ただ素朴に子どもに向き合うだけの親だった。そして、あたりまえのように山の田んぼ仕事に出ていった。

反抗し続ける子どもを前に、親としてあり続けてくれたことに、いまになって感謝する。

僕が反抗をやめて、大人になって数年後、父は他界した。大好きだった父を否定することで、僕は大人になった。けれど、根っこのところで父への思いは変わらない。

 『スウィング!』には、僕が反抗を始めた頃と同じ中三の主人公がいる。あの頃の僕と今の僕との思いが重なって、生まれた作品だと思っている。どのように読んでいただけるかは、読んでくださる方の感想を待つしかない。

(よこさわ・あきら)●既刊に『まなざし』『ハミダシ組!』『ふぁいと!卓球部』など。

「スウィング!」
童心社
『スウィング!』
横沢 彰・作
五十嵐大介・絵
本体1,400円