日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『空母せたたま小学校、発進!』 芝田勝茂

(月刊「こどもの本」2015年11月号より)
芝田勝茂さん

子どもたちに心ふるえる物語を

 3・11のあとの原発再稼働への動き。児童ポルノ法改正、特定秘密保護法、集団的自衛権。その動きを無言で支える人々。大きな犠牲があっても繰り返されるこの国の構造。このままいけばどうなるのか? 危機はそこまで来ているのに、いま何をしなければならないかわからない……。デモに行き、小さな集まりを持つ。古典の講座や、日本ペンクラブ「子どもの本」委員会で、フォーラムを企画する。……だが、児童文学の作家なのだ。やるべきことは、本当はただひとつ。子どもたちに、心ふるえる「物語」を手渡すこと。
 ……しかし、それはいったいどんな物語であるべきなのだろう?
 3・11の前から、ずっとあたためていた物語のかけらがあった。それが、またしても心の中でふつふつと鎌首をもたげる。この話が、なぜ今、蛇のようにわたしの脳裏をかすめる?
 そんな時に出会ったのが、そうえん社の小櫻さんだった。おそるおそる、突拍子もないその話のイメージを語ってみる。
「……洪水で流された小学校の代わりに航空母艦がやって来る、という話なんだ」「おもしろそう!」
 ストレートに受けとめてくれた編集者。その夏、3・11のあとにはじめた、個人主催の小規模なサマーキャンプで、印象的な子どもたちと出会う。
 それらが煮詰まって、一か月ほどで、「これまで何度も逃げられた一匹の蛇」を、なんとかつかまえ、一巻の絵巻物にして檻に入れることができた。
「大人のツケをわたしたちが払わなかったら、それは結局、子どもに残されるだけだよね」と語りだす登場人物。
 物語の力はすてきなスタッフを選び、イラストも、恒例の「地図」も楽しく仕上がり、作り手側の熱意や愛のこもった本になった。あとは予断と偏見なしに読んでいただけるかどうかだ。
 いま、登場した子どもたちが口々に語りかけてくる。
「早く、つづきを書いて! もっともっと活躍させて!」と。

(しばた・かつも)●既刊に「ドーム郡」シリーズ(全3巻)、『ふるさとは、夏』など。

『空母せたたま小学校、発進!』
そうえん社
『空母せたたま小学校、発進!』
芝田勝茂・作
倉馬奈未×ハイロン・絵
本体1、300円