日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『カブトガニの謎』 惣路紀通

(月刊「こどもの本」2015年9月号より)
惣路紀通さん

カブトガニと私

 カブトガニという動物を知っていますか?
 本やテレビで見たことがある、聞いたことがある、という人は多いかもしれませんが、実際に見たことのある人、「カブトガニってどんな動物?」と聞かれてちゃんと答えられる人は少ないと思います。
 カブトガニは、あの恐竜の大絶滅をも乗り越えてきた生き物で、二億年も前から、形をほとんど変えていません。ふつう生き物の進化は、環境に合わせてどんどん形を変えていきます。では、なぜカブトガニは、進化の過程で姿を変えず、現在まで生き残ったのでしょうか? 本書では、カブトガニの進化や、体のつくり、その不思議な生態など、カブトガニについて、わかりやすく紹介しています。
 私は、岡山県笠岡市にある「笠岡市立カブトガニ博物館」でカブトガニの研究や繁殖・保護活動を行ってきました。カブトガニと付き合うようになって三十七年になります。博物館の周辺の干潟は「天然記念物カブトガニ繁殖地」に指定されていて、保護活動の一環として、一般市民の方と一緒に、博物館で飼育したカブトガニの幼生の放流も毎年行っています。
 笠岡湾は干拓を繰り返した結果、もともと天然記念物に指定されていたカブトガニ繁殖地も埋め立てられてしまい、海の環境が悪化して、昔にくらべるとカブトガニの数は激減してしまいました。カブトガニが生息することができる「きれいな海」を回復すべく、笠岡市では市民と行政が協力して、環境の整備やカブトガニの保護活動を行っています。
 カブトガニはきれいな干潟や海にしか棲むことができない生き物です。カブトガニが棲める環境を守ることは、海や自然を守ることにほかなりません。本書を読んでカブトガニに興味を持っていただければ、きっと人間と自然とのつながりについても興味を持っていただけることと思います。
 いまだに謎の多いカブトガニの生態ですが、今後どのように解き明かされていくのか、私も楽しみです。

(そうじ・のりみち)
●既刊に『カブトガニ』『カブトガニからのメッセージ』など。

『カブトガニの謎』
誠文堂新光社
『カブトガニの謎』
惣路紀通・著
本体1、500円