日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『絵本 みんなおおきくなった』 藤本ともひこ

(月刊「こどもの本」2015年8月号より)
加部鈴子さん

現場目線をいかした歌から生まれた絵本

 作詞藤本ともひこ+作曲中川ひろたかの二人で作った歌は三百曲。こどもの歌からラブソングまで。付き合いも実は長い。ぼくが大学生の一九八〇年代に出会っている。そして絵本も作詞も「かいてみれば」とぼくに勧めたのは中川さん。保育雑誌「pripri」で、こどもの現場で歌える新しい歌を連載しようと、始めたのが、「ぼくのうた きみのうた」シリーズ。

 ロックありバラードあり。言葉遊びあり、わらべうたのようなときもある。そんな歌作り毎月一曲を五年続けた。保育園でのこどもたちの生活から作詞を試みた藤本と、鼻歌で作曲する保育経験のある中川。二人で七十曲あまりを作った。その中から絵本が生まれた。『しーらんぺったん』『すっぽんぽん』。ちょっとナンセンスな歌をもとに、中川が文、藤本が絵を描き、楽しいへんな絵本になった。

 そして、三冊目が『みんなおおきくなった』だった。卒園の歌を選んだ。お話は、とつとつと振り返るこどもの成長。となると、絵もいままでのような気分にはなれない。真正面からこどもを描く方がいいと、お初の水彩タッチに取り組んでみた。原作では、ちょっとコミカルな場面も出てくる。ここが、チャップリン的中川原作。コメディ映画の巨匠チャップリンは笑いの中に、グッとくるシーンで、映画を引き締めてみせてくれた。中川原作は、一見真面目でストレートな絵本のなかに、クスッと、ホッとさせるシーンをはさみこんで、味を引き立てるのがうまい。絵の方は、それを受けて、原作の言葉に出てこないけれど、物語をどう視覚化するのかが勝負所になる。

 元保育士にして音楽家の中川ひろたかというひとは、日本の絵本界に、「現場目線と言葉のリズム、そしてポップ」を持ち込んだ。とぼくは思っている。どこかアーチスティックに偏りがちな絵本という世界に、そんな風を吹き込んだ功績は大きい。そして、中川原作のどんなテーマの絵本にも、その風は吹いている。さて、その一冊になれたかどうか。いかがなりましたでしょうか。ご高覧いただければ幸いです。

(ふじもと・ともひこ)●既刊に「いただきバス」シリーズ、『ねこときどきらいおん』『しんぶんしあそび』など。

『絵本 みんなおおきくなった』
世界文化社
『絵本 みんなおおきくなった』
中川ひろたか・文
藤本ともひこ・絵
本体1,300円