日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『巨大な乗り物』 二瓶邦夫

(月刊「こどもの本」2015年1月号より)
二瓶邦夫さん

子供の想像空間

 子供の頃、米軍基地のお祭りに連れていかれたことがあります。停泊中の軍艦を目の前にして、ただ漠然と「すごい!」とか「かっこいい!」などと思っていましたが、いざ軍艦の中を見せてもらうと、「ここで操縦するのか!」「大砲はここから撃つのか! 弾はどうやって?」「船員はここで寝て、ここで食べて……」といった具合に、興味が次々と湧き出てきて、空想の世界にいざなわれていったのを覚えています。

 こうした空想という行為は、子供にとってとても大切なものです。空想するということは、物事を深く細かく見る観察力、そして、夢を描く創造力を培うことだからです。

 本書を手に取る子供たちも、同じように空想を膨らませることができると思います。登場するのが、どれも子供の常識をはるかに超えるような乗り物であるだけに、その外部、内部両面の話は子供が夢を膨らませるのにうってつけです。絵を見てびっくり、説明を読んでびっくりを繰り返しながら、あたかも自分がそこに乗っているかのような空想が膨らむことでしょう。

 絵を担当しているスティーヴン・ビースティーは、精密な断面図を巧みに駆使した「輪切り図鑑」シリーズで、世界的に人気を博しているイギリス人イラストレーターです。そんなビースティーが陸海空、そして宇宙を代表する巨大な乗り物を、彼独特の精密な絵で紹介しているのが本書です。

 対象年齢は五歳からですが、多少難しめな言葉や用語が出てくるところもあります。これは原文でも同様です。でも、心配はいりません。子供は言葉よりも、まず絵を見て理解するものです。知らない言葉、例えばフラップという言葉が出てきても、絵で理解していれば「翼のこの部分のことをフラップというんだ」と、すんなり受け入れるでしょうし、興味を持って繰り返し読んでいれば、フラップという言葉がイメージとともに頭に残ります。そして、相応の年齢になれば、その言葉は厳密な意味と共に完全に消化されてしまうものです。

(にへい・くにお)●既訳書にH・コーベン編『ベスト・アメリカン・短編ミステリ2012』など。

「巨大な乗り物」
大日本絵画
『巨大な乗り物』
ロッド・グリーン・ぶん
スティーヴン・ビースティー・え
二瓶邦夫・やく
本体1,700円