日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『しゅくだいさかあがり』 福田岩緒

(月刊「こどもの本」2015年1月号より)
福田岩緒さん

あきらめない気持ち

 小学校三~四年の頃だったと思う。その頃、クラスの友達の中で、子供用の自分の自転車を持っていたのは、数える程しかいなかった。だから友達の多くは自転車が乗れなかった。私もそれにもれず自転車に乗れなかった。

 三年生頃から友達との行動範囲がぐっと広がる。遊び場を求めて隣町へ行ったり、距離のあった友達の家へ遊びに行くのに、どうしても自転車が必要になった。そこで、父の大型の自転車を持ち出して、近くの広場で自転車乗りの練習を始めた。重くて座席の高い父の自転車は、子供だった私にとってとても扱いづらい自転車だった。

 広場には私の他にも、何人もの友達が同じように同じような自転車で、自転車乗りの練習をしていた。座席になど座れないし、たとえ座れたとしても、小学生の短い足だとペダルにはとても届かない。そこで当時流行っていたのが、三角乗りという乗り方だった。サドルからハンドルに伸びたフレームでできた、三角の中に片足を入れて、ペダルをこぐ乗り方だ。この乗り方だと自転車を、三角に入れた足側に微妙に傾けないと、スムーズにペダルがこげないのだ。後ろから荷台を支えてくれる人もいない。半こぎするたびに、倒れそうになってあわてて両足を地面につける。時には両足で踏ん張れずに転倒する。それの繰り返しだった。何度も何度も繰り返すうちに、半こぎが二回でき、それが三回に増え、そのうち続けてできるようになった。それまで歩くか走るかの移動だけだった私は、数回の半こぎができただけで、味わったことのない興奮に包まれた。体が宙に浮いているような錯覚、浮いたまま平行移動する不思議な感覚に、私は汗とホコリだらけの顔で、異様に興奮したことを今でも覚えている。半こぎが安定すると自然とペダルを回転させることができるようになる。

 誰にも強要されなかったにも関わらず、擦り傷などものともせずに、三角乗りに挑戦し続けていたあの頃が、今になってはとても懐かしい。『しゅくだいさかあがり』は、そんな懐かしい出来事を思い出させてくれた。

(ふくだ・いわお)●既刊に『あかいセミ』『おとうさんのいなか』『おつかいしんかんせん』など。

「しゅくだいさかあがり」
PHP研究所
『しゅくだいさかあがり』
福田岩緒・作・絵
本体1,100円