日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『いえのなかのかみさま』 もとしたいづみ

(月刊「こどもの本」2014年11月号より)
もとしたいづみさん

そうだ、神様が見ているんだ!

 長女が中学生のとき、修学旅行で岩手県に行き、農家に四、五人ずつ宿泊するファーム・ステイを体験した。

 女子の感想は「ソフトクリームがおいしかった」が多かったが、男子は断然「夜がハンパなく暗くてやばかった」だったそうだ。ある男子の班は、外のお風呂が怖すぎたという理由で、ひとりも入浴できなかったというから、中学生、かわいいぞ! でも大丈夫か、都会っ子!

 今、都会は特に、夜でも明るく、家の中も隅々まで明るい。そんなところでは、ナニカがいそうな気配を感じることもないのかもしれない。

 光村教育図書が創立五十周年の記念出版として「いのちの絵本」シリーズを創刊するにあたり、「命」をテーマにした絵本を、という依頼があった。

「子ども達に命の大切さを伝えたい」というフレーズから、私がまっさきに伝えたいと思ったのは、ひとりぼっちで、誰にも気づいてもらえないと思っている子どもに、「誰かがちゃんと見ているよ」「君を見守っている誰かが必ずいるからね」ということだった。「誰か」……それはおそらく見えない存在だ。

 昔から日本には「八百万の神」といわれる「全てのものに神が宿っている」というすてきな考え方がある。神様は家の中にもたくさんいると考えられてきた。

 少し前まで日本では、人は家で生まれて家で死んだ。病院で生まれたり死んだりするようになったのは、わりと最近のことなのだ。家の中の神様達は、人々の命を、日々の暮らしを、ずっと静かに見守ってきたのだと思う。そんな神様は今でもきっといるはずだ。

 いつでもどこかで、神様はちゃんと見守ってくれている。そんなことを絵本で表現できたら、と思った。

 早川純子さんの描く神様達は、温かい光に輝いていて、ユーモラスでとてもフレンドリーだ。

 この絵本を読んだ子ども達が、ふと何かの拍子に「そうだ、神様が見ているんだ」と思い出してくれたら、こんなに嬉しいことはない。

もとしたいづみ●既刊に『じごくのさたもうでしだい』(竹内通雅/絵)、『こけしちゃんのおかいもの』(おざきえみ/絵)など。

「いえのなかのかみさま」
光村教育図書
『いえのなかのかみさま』
もとしたいづみ・文
早川純子・絵
本体1,300円